第150話 11月中頃の状況

 11月15日。

 フェリーデ北部縦貫線、及びその関連路線工事はほぼ全域で着工した。

 ちなみに関連路線とは、本線にして高速路線であるフェリーデ北部縦貫線と、各領地の領都を接続する線のことだ。


 北部縦貫線には各領に1駅ずつ、主要駅を設けている。

 北から順に、

  ○ ウィラード領アオカエン

  ● バーリガー領エズフィル  

  ○ スティルマン領ガナーヴィン

  ● シックルード領アベルタ

  ● モーファット領ビーシーツ

  ○ ハンティントン領ヤラハス

  ○ ブローダス領ビンシントン

  ○ ハドソン領ネイアン

  ● ダーリントン領ダラム

の9駅で、うち●の4カ所は領都ではない。


 この領都ではない駅から領都へは接続線を敷く事で合意した。

 ここでお分かりかもしれないが、シックルード領に更に路線が増える。

 スウォンジー北門駅からシノマ河川港まで本線と平行し、その後南西へと向かいアベルタで北部縦貫線に合流する、延長9離18kmの路線が。


 つまりスウォンジーからガナーヴィンまで、今までシックルード本線しか無かったところに、新たにシノマ河川港~アベルタ~ガナーヴィンという新経路が出来る訳だ。

 まるで阪急で梅田から宝塚まで行く際に、宝塚線で行くのと神戸本線&今津線で行くのと選べるような感じだ。

 JR宝塚線は無いけれど。


「これでシックルード領のかなりの部分が鉄道でアクセス可能になる訳だ。流通もかなり変わるだろうね。今から楽しみだよ」


 ウィリアム兄、そんな事を言いやがった。

 どうやらその辺、当初から計算済みだった模様。

 ただその流通を担うのは、僕というか北部大洋鉄道商会うちなのだろう、きっと。

 何となくこの先も苦労させられそうな……


 なお北部縦貫線には主要駅の他にもいくつか駅を設置する予定になっている。

 列車種別としては主要駅の一部しか停まらない特急、主要駅しか停まらない急行、他の駅も停まる各停を設定予定。


 特急退避とか、領都からの乗り入れ列車とか、なかなか複雑なダイヤになりそうで時刻表鉄的には楽しい。

 ダイヤを組み立てるスジ屋は大変だろうけれど。


 さて、ほとんどの新線部分は領主側が手配した商会等が工事を行うが、北部大洋鉄道商会うちが直接工事を行う場所が2箇所ある。


 ひとつはシックルード領内の北部縦貫線とアベルタ~スウォンジー間の接続線。


「リチャードのところに工事もお願いする方が手っ取り早いからね。そっちも余分な手間がかからなくていいだろう」


 そうウィリアム兄が言うので仕方ない。

 勿論工事料金はしっかり相場通り頂く。


 そしてもう1箇所は、ハンティントン領とブローダス領を結ぶトンネル区間だ。


 17離34kmのトンネルを施工可能な業者なんて国内探してもそういない。

 しかし北部大洋鉄道商会うちの技術部はそれなりに人材豊富。

 地質学と土属性魔法の専門家なんてのもいる訳だ。

 というか、つい先日採用してしまったのだけれども。


『アルコ峠トンネルについてはエドモント先生に全面的に任せていい。その気になれば1人でも17離34km程度のトンネル位掘れるだろう』


『掘り出した土を運ぶ作業員は必要でしょうけれどね。あとは何人か助手を付ければ問題無いでしょう。助手も手伝いというより、先生がやる事を見て学ぶという感じになると思います』


 カールやキットが『先生』なんて付けて呼ぶところからも分かる通り、エドモント技術顧問はカールより年上で、能力も実績もある研究者だ。


 勿論王立研究所出身で、研究室も持っていて、平民としては研究所内ではかなり恵まれている方だったらしい。

 だからエドモント技術顧問が北部大洋鉄道商会うちに来たのはローチルド主任調査官経由ではない。

 自薦だ。


『アルコ峠下に長大トンネルを掘ると聞いた。是非私にやらせてくれ。条件はそっちに行ったアレスと同程度で十分だ。トンネルを掘る際、サンプルを取る事さえ許可して貰えればそれでいい』


 キットに直接そういう連絡があったそうだ。

 

『能力は確かですし、土属性に関してはカールより上です。ただ国立研究所の方もエドモント先生に抜けられると困るでしょう。ですから御嬢様と相談してみます』 


 案の定、ローチルド主任調査官も頭を抱える事態になったらしい。

 急遽キットが王都バンドンへ出張する羽目になった。

 結局は本人の意志が通り、北部大洋鉄道商会うちにやってくる事になったのだけれども。


 カールもキットも能力には太鼓判を押しているし、扱いも技術部の方に任せていいらしい。

 僕は家や給料等に、技術副長級の待遇を用意しただけ。

 きっとこれで問題は無いのだろう。

 少なくとも北部大洋鉄道商会うち的には。


 ◇◇◇


 11月中旬、技術部的にはこんな感じで北部縦貫線の方への動きが主だった。


 しかし運輸部は12月開業のローカル線4本の準備でてんてこまい。

 総務部は経理が各領主からの前渡金と、採用だの工事だの車両製造にかかる費用だのでお祭り状態。

 総務部人事の方も採用と新人の研修と配置関連作業でやはり盆踊り状態。


 しかし僕の業務でその辺りに関連するもののほとんどは、ダルトン以下に投げてしまった。

 だから僕の仕事は会議、決裁の他は基本的に貴族対応だけ。


 週に1回位ウィリアム兄と会談。

 2週間に1回位、ジェームス氏と会談。

 あとはウィラード領、バーリガー領、モーファット領、ハンティントン領へ挨拶でそれぞれ1回ずつ行っただけ。


 だから午前中に会議と決裁をこなせば、午後は割とフリー。

 商会内を巡視と称してうろうろし、工房に入り浸る事が出来る。

 何と言うか、鉄鉱山長時代に戻ったようだ。


 残念ながら僕に対する警備強化の為、列車に飛び乗って視察というのは出来なくなった。

 だからジビエ調達を期待して朝一の森林鉄道に乗るなんて事はもう出来ない。


 それでも業務過多だった数か月前に比べると大分ましというか、楽しい状態だ。


 なお工房では工事の他、

  ○ カール一派が高速列車の先行量産型を作り始め

  ○ キットが新たな安全管理システムを完成させ

なんて事もやっている。


 高速列車の先行量産型は、貫通型の先頭車と非貫通型の先頭車が作られ、非貫通型は一段と流線型という感じになった。


 更にキットの安全管理システムも、ATSと列車無線を兼ね備えたなかなか高度かつ便利なものに仕上がっている

 この辺りの進捗を見るだけでも楽しい。

 鉄道をやってよかったと思える。


※ 梅田~宝塚間の鉄道経路について

  経路検索ソフトで調べるとこんな感じになる(2022/11/24現在・時間指定無し)

  ○ 阪急宝塚線急行 所要42分(うち乗車時間32分)乗換無し。距離24.5km。

  ○ JR宝塚線 所要43分(うち乗車時間30分)乗換無し。距離25.5km。

  ○ 阪急神戸線特急&今津線 所要44分(うち乗車時間28分)乗換1回(西宮北口)。距離23.3km。


 つまり直行の阪急宝塚線やJR宝塚線より、阪急神戸線に乗って西宮北口乗換をした方が、乗車時間は短いし距離も近い。


 阪急宝塚線が結構曲がりくねっている上、池田市側に大分膨らんだ経路になっている事。

 JR宝塚線は尼崎経由でやはりちょい大回り気味な線形である事。

 一方で阪急神戸線は線形が良くて速度を出せる事。そして今津線も支線の癖に割とまっすぐである事。

 この辺りの結果だったりする。

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