第31章 ラングランド大滝へ

第125話 森林鉄道のおもてなし

 乗ってしまえば森林鉄道の入口であるビルナレボ貯木場駅まで半時間30分少々。

 ただしそこからの森林鉄道区間は1時間程かかる。

 森林鉄道区間は最高速度が時速20離40kmまでだから。


 車窓の景色は最高だ。

 清流が流れ、時々滝や渓流があり、風も爽やか。

 それでも見ているだけでは飽きる人もいるだろう。


 この事は商会の方でも承知済みだ。

 対策としてこの車両には車掌兼車内販売員が乗車している。

 この車掌が車内からの景色を案内したり、車内販売をしたりするのだ。


 ビルナレボ貯木場駅を出て森林鉄道区間に入った直後、この車掌が、大滝周辺のガイドマップと小袋に入った菓子を1人1人に配っていく。


 菓子は2種類で、

  ○ 落花生の周囲を黒糖や飴でコーティングしたもの

  ○ 丸麦のあられと炒った落花生が混じったもので、軽く塩味がついているもの

のどちらかを客が選ぶ形。

 勿論これは無料サービスだ。


 ガイドマップの裏は現地の売店や車販で売っている商品の案内になっている。

 御菓子の袋を配り終わった後、車掌兼車内販売員は車内アナウンスをしながら、合間合間に車内販売をする仕組み。


「なるほど、案内と広告が一緒になっているんですね」


「良く出来ています」


 僕もそう思う。

 この広告入り案内図のおかげか、車販の売上げは非常に好調らしい。

 6両で100人ちょいの乗客しかいないのに、正銀貨4枚4万円以上の売上げがあると聞いている。


 広告の方を見てみる。

 車販で売っているのは飲み物各種、御菓子類、弁当御土産等。


「一昨日お兄が言っていたように、あのアイスもあるんだね。しかも種類が増えているようだし。車販が来た時、ホットドリンクと一緒に頼もうよ」


 パトリシアが広告面を見て気付いたようだ。


 かつてブルーベルに試作してもらったシンカンセンスゴイカタイアイスもどきは、地元の新興商会との協力で無事商品化。

 バニラの他、チョコ風味とイチゴ風味、ブルーベリー風味なんて種類まで追加された。


 車販と大滝下の売店、ラングランド中央駅売店で販売している。

 ラングランドは酪農が盛んなので、それを活かした形だ。

 落花生菓子もラングランド産で、この辺は地産地消を意識している。


「わかった。車販が来た時に頼もう」


 この辺は予定の範囲内だから問題無い。

 なんて思ったら今度はローラが口を開く。 


「春に来た時と大分違いますね。駅の場所も違いますし新しい遊歩道も出来ているようです。楽しそうですね」


 どれどれ、ガイドマップの方を見てみる。

 駅が橋の手前にあるのは予定通り。

 これは橋向こうの車両基地兼作業場に、長編成の旅客車を停める駅を作れる場所が無いからだ。


 そして遊歩道はこの駅から河原へと下って……

 あれ、下って滝へ行く他に、滝周辺をぐるっと回る道が描かれている。

 これは知らない道だ。


「本当ですね。徒歩1時間で大滝周辺を周回するとあります」


「高い橋の上を歩いたり、滝全体を見る事が出来る展望台があったり面白そうですね」


 ちょっと待ってくれ! と僕は思う。

 勿論表情や態度には出さないけれど。


 今日は滝までのんびり歩いて、滝で御飯を食べてゆっくりするだけのつもりだった。

 だから寝不足でも問題無いだろうと思ったのだ。

 1時間も歩くなんて予定は考えていない!


 なんて事を言っても多分無駄だろう。

 ローラ、明らかに楽しみにしている感じだし。

 仕方ない、回復魔法と身体強化魔法で誤魔化そう。

 一般人用の遊歩道ならそれで何とかなるだろう。

 

「順番的には駅を降りた後、一度遊歩道で滝の上まで行って、そこからゆっくり降りてくる形がいいでしょうか?」


 一度滝の下へ降りてから登るよりその方が楽そうだ。


「そうですね、そうしましょう」


「あの橋を歩いて渡るのも楽しそうですよね。下までかなり高さがあって気持ちよさそうです」


 『あの橋』とは森林鉄道終点の手前にかかっている橋の事だ。

 この橋は人が歩けるよう、線路の脇に歩行者用通路が設けてある。

 ちなみに川から橋までの高さは、パンフレットによると21腕42m

 下をみたら絶対怖いと思う。


 しかしローラは高い所が好きだった。

 僕はその事を今頃思い出した。


『皆様、本日はラングランド森林鉄道をご利用頂き、大変ありがとうございます。

 これから大滝入口駅までの6半5時間50分、車窓からご覧になれます滝等の名所通過時にご案内をさせて頂きますので、予めご承知下さい』


 車掌からのアナウンスが流れ始める。

 

『さて、早速ですがまもなく左側、ビルナレボ川の向こう側に滝が見えます。アルク沢のアラウド滝で、落差8腕16m、幅2腕4m、3段の滝です。5数える程で通り過ぎますので注意してご覧下さい』


「あの川の向こう側ですね」


「どんな滝だろう」 


 御嬢様方だけでなく、多分車内のほぼ全乗客が左側を見る。


 列車が現在走っているのは幅10腕20m程の河原を中心とした谷間の中、川から3腕6m程上の山肌部分。


 左側の車窓には白っぽい石や岩が中心の河原と、そのやや向こう側寄りを走る清流、そしてその向こう側にある木々が生い茂った山の斜面。


 その川が分岐して細い方が山側に谷を作り、その奥に白くて長く高い水の流れが見えた。


「あれですね」


「綺麗です」


「結構流れていますね」


 あっという間に見えなくなった。

 けれど確かにいい滝だったなと思う。


『これから車内販売で車両内を回らせて頂きます。販売しております商品は、先程お配りしたガイドマップ裏面の通りとなっております。どうぞ気軽にお声をおかけ下さい』


 さて車販だ。

 ただ車掌がいるのは6両目最後尾の運転席部分。

 僕らがいるのは先頭車両。

 だから回ってくるまで結構時間がかかるだろう。

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