第123話 お父様方の陰謀?

 何だかなあと思っても、貴族としての付き合いは大事だ。

 それに間違いなく今回の首謀者はパトリシアだろう。

 他の令嬢方に罪は無い……訂正、あまり無いくらいにしておこう。


 だから接待は予定通り続行する。

 山頂でのんびり景色を楽しみつつお昼を食べて。

 名残惜しみつつのんびり下りてケーブルカーの駅の屋上でジブロ鍋を食べるのも予定通り。


「この料理も面白いですね。何か疲れが取れる気がします」


「ひょっとしてこれ、ジブロ鍋ですか? モーファット領にもある」


「ウィラード領にもあります。こんなに具沢山ではありませんし、味付けも少し違いますけれど」


 どうやら山間部に領地がある皆さんはご存知のようだ。


「ええ、農村の収穫祭の際、大鍋でふるまわれるジブロ鍋です。これはシックルード領風で小麦団子が長細く、味付けにビール酵母味噌とライトトリークルを使っています。

 このあたりは場所によって味付けが少しずつ違うようです」


「そう言えばモーファットのものは団子がもう少し大きめの球形です。甘さは似ていますけれど、色はもう少し透明な気がします」


「ウィラードのは色と味はそっくりですけれど、小麦がもっと薄くて平たいです」


「そう言えばハドソン領にも似たものがありますわ。団子ではなく平たく薄いもので、汁は豚の骨を煮込んで白濁したもので、塩味です」


 日本で言う所のお雑煮のような違いがある訳か。

 芋煮よりは広域に広まっている感じだ。


 しかしハドソン領は豚骨風味なのか。

 団子ではなく平たく薄い小麦粉生成物を入れるだなんて、それはもう、ラーメンに近い代物ではないだろうか。

 微妙に気になる。


 よし、ブルーベルに頼んで豚骨ラーメンを試作して貰おう。

 リディア嬢がいる間に間に合うかな。


「この器は以前、森林鉄道で出していただいたものと似ていますね」


 これはローラだ。


「ええ、あれと同じ工房で作って貰っています。この方が雰囲気が出るので」


「確かにそう言えばこの器、普通に使われるものと違いますね。分厚くて渋い色で」


「田舎に来た、という雰囲気の為ですね」


「ええ。この場所はそういったコンセプトにしていますから」


 僕ではなく観光推進部が考えたものだ。

 僕が全部考えたら地球の日本風になってしまいそうだし。

 ただ雰囲気的には今の感じ、悪くないと思う。


「あとは此処でお土産物を見て、ケーブルカーで降りて、下のお店を見ながら駅へ行けば終わりですね」


「海水浴の時も思いましたけれど、帰らなければならないのが残念ですわ」


「私もそう思います」


「大丈夫だと思いますわ。まだ行っていない場所もありますし、日程的にはもう一度此処やメッサ―に行くことも出来ますから」


 パトリシアがこういう口調を使うとビシバシ違和感を感じる。

 違和感と言うかさぶいぼ(※鳥肌のこと)が立ちそうだ。

 そして言った内容もちょっと勘弁してほしかったり。


 お金はまあ、それくらいは何とかなる。

 でも付き合う僕の体力というものを考えて欲しい。

 休みが終わればお仕事なのだ。


「確かにそうですね。明日行く場所も楽しみですわ」


「いい場所ですよ。私とパトリシアは春に一度行きましたけれど」


 今のリディア嬢とローラのやりとりにより、ラングランド大滝へは明日行く事に決定。

 はあ、何だかなあ……


 ◇◇◇


 ケーブルカーで降りるときの景色はやっぱり好評だった。

 帰り、やってきた列車が路面鉄道直通のクモロ604だったのが少しだけ誤算。

 土産物屋で時間を取られ、座席数が多いモレスビー港発のクモロ502の時刻に間に合わなかったのだ。


 しかし何とか御嬢様方は座れたのでセーフ。

 ロングシート2箇所に別れたし、僕は何かあるときの為座らずずっと立っていたけれども。


 疲れて家に帰り、夕食も無事に終え、デザートに新作含めたケーキを出したりして一段落。

 しかし僕はまだ寝る訳にはいかない。

 少しばかり確認したい事がある。


 マルキス君に話を聞くのが早いだろう。

 そんな訳で部屋に呼び寄せて質問を開始。


「今回招いた御嬢様方から鉄道の話が出てきた。そこで聞きたい。ウィリアム兄達は何処まで鉄道に関する根回しを進めているんだ?」


 マルキス君は僕と実家の諜報要員だ。

 もしウィリアム兄がこの情報を僕に知らせてもいいと思っているのなら、教えてくれる可能性が高い。


「ウィリアム領主代行はもう少し話がまとまるまで話を伏せておくつもりでした。しかし御嬢様方からその話が出たなら仕方ないでしょう」


 マルキス君はアイテムボックスから2枚の紙を出して広げる。


「協議しているのは南から順に、

  ○ ダーリントン伯爵家

  ○ ハドソン伯爵家

  ○ ブローダス子爵家

  ○ ハンティントン子爵家

  ○ モーファット子爵家

  ○ スティルマン伯爵家

  ○ ウィラード伯爵家

です。我がシックルード伯爵家を含めて8領主となります。


 またスティルマン伯爵家経由で、

  ○ バーリガー伯爵家

にも協力を要請しています」


 思った以上に大事になっている。

 子爵以上の領主家は21家しかない。

 その半数近くに話を持って行っているという事になる。


「内容は鉄道敷設か。王都と北部各領地を結ぶ」


「ええ」


 マルキス君は頷く。


「元々はブローダス子爵家とハンティントン子爵家による、第六街道活性化に向けた協議がはじまりです。

 ところでマシオーア領からマルケット領まで鉄道を敷設する、という話についてはご存じでしょうか?」


 キットが新聞を持ってきた件だな。


「ああ。6月終わりにそんな発表をしたらしいな」

 

「ええ。北部と南部を結ぶ新たな交通機関として整備を進めるという話です。これが出来た場合、南北流通路としての第六街道の価値は更に下がる事でしょう。


 更にこの鉄道、マールヴァイス商会系のマリウム商会が実質的に建設を主導しています。かつての冷害でマールヴァイス商会がどう動いて、その結果どうなったかはご存じですね」


「勿論だ」


 マールヴァイス商会は子会社を使って穀物類の買い占めを図ったのだ。

 ただ買い占めの表に出たのはあくまで子会社だけ。

 王国法によって罰せられ取り潰されたのも子会社であるヴィクテマ商会だけ。


 マールヴァイス商会はこの件で大儲けしただけでない。

 穀物類の急激な値上げで苦しんだ領主家の幾つかを、実質的な支配下においた。

 今でも3割ほどの領主家は借金や贈賄等で商会に取り込まれている。

 マシオーア伯爵家やマルケット子爵家のように。


「マールヴァイス商会系に北部への運輸を握られては危険だ。そんな共通認識もあり、北部8領のうち5領主が協議を行いました。更に中部のうち北側に位置する3領主が加わったのが現在の状況です」


 マルキス君の話で誰が、まではわかった。

 しかし何をどうするかの部分がまだ出てきていない。

 まあ、この話の筋でいくと結論はひとつしかないけれど。


「それで鉄道を敷設しようという訳か。北部各領と中部を結ぶ鉄道を」


「ええ。現在王都にいる各領主が話し合っています。ですが現在、何処に鉄道を通すかで揉めているようです。ここ1ヶ月はあまり進展がないという情報が入っています」


 なるほど、父が王都から戻ってこないのはそういった理由もある訳か。

 しかし鉄道のルートか。

 前世日本でも鉄道のルートは往々にして政治案件になっていた。

 話し合いの結果、経済性や効率性を無視したルートになってしまったら最悪だ。


 ここは何か手を打っておくべきだろう。

 しかし何かいい手があるだろうか。


 何か日本にいい例が無いだろうか……

 考えて、そして思い出す。

 そう言えば日本の新幹線建設の際、世論を広軌別線へとなびかせた有名な講演会があったなと。


 研究発表みたいなものは苦手だ。

 しかし世論を、そして領主家を動かせる手段で僕が出来るのはこういった方策だけだろう。

 この国の中部と北部を結ぶ大幹線を大船渡線みたいな線形にしない為に。

 思い切りアピールさせて貰おう。


※ 1957年(昭和32年)5月30日に国鉄鉄道技術研究所が開催した創立50周年記念講演会の事。統一テーマは『超特急列車、東京 - 大阪間3時間への可能性』。

  ここで発表された新幹線構想は世間から大きな反響を呼び、一般人の東海道線増強における広軌別線案への関心は一気に高まった。

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