第114話 海水浴場の風景
この世界の水浴着は露出こそかなり低め。
しかし身体に張り付いているので体形がそのまま出る。
ついでに言うとパットとか入っていないようで、胸のところにどう見ても突起が……
落ち着け僕。
この国の水浴着はこれが普通。
だから問題は何もない筈だ。
ただよく考えると女子の水浴着姿を見る機会なんて普通無い。
学校の水泳授業は男女別だったし、海水浴もプールもこの国では一般的では無いし。
深く考えるな、感じろ!
そう心の中で思ってそして訂正。
感じろは余計だった。
むしろ感じてはまずいだろう、今は。
なんて思考は極力表情に出さないようにして、いつもと同じような口調を意識して口を開く。
「道具は一通り借りましたから行きましょうか」
「そうですね」
ローラの水浴着は水色で、上着もパンツ部分も裾が広がってスカートっぽくなっているデザイン。
可愛いしじっくり見たいかと言えばそりゃ見たい。
しかしじっくり見るなんてやったら変態だ。
だからあえて見ないようにして、そして先頭を歩き始める。
「まずは借りた休憩場所の方へ行きます。椅子、屋根、テーブルがついていますので、そこを拠点にして遊ぶ事にしましょう」
プロムナード部分を抜けると景色が広がる。
砂浜、そして海だ。
「結構人が来ていますね。思った以上です」
確かにローラの言う通りだ。
もちろん関東近辺の激混み海水浴場と比べれば空いているだろう。
しかしこの国的に考えればかなりの人出。
パラソルとテーブル、椅子を置いた休憩セットがあちこちにあり、その何処も誰か人がいるような感じだ。
もちろん海や砂浜にも人は大勢。
休憩場を100箇所とすれば、平均3人が使っているとして300人。
実際はもっと休憩場の数は多い筈だ。
更に休憩場を使わず砂浜で直接休んでいる連中や背後の店を使う連中を加えると、千人は余裕で超えている。
「確かに人が多いですね。思った以上です」
「早く行こうよ。私達の休憩場はどの辺なの?」
「もう少し先、8人用だし大型の道具で遊べる場所の近くだからさ」
周囲を確認しながら歩いていく。
山側は7~8軒、売店兼食堂兼休憩所の建物が建っている。
その後ろ側はトガサラマツの防風林。
海側は青い海、白い砂浜、日除けのパラソル。
海水浴場らしい風景だ。
「別荘に似たロケーションですけれど、人が多いというのははじめてですね」
「確かに他に無いような気がします」
「この地域だけだと思いますわ。ガナーヴィンという大都市があって鉄道で安価に移動できるからこそ成立するのではないでしょうか」
お嬢様方のそんな会話を背に歩いていく。
来ている人は山と比べると年齢層が若めが多い。
若い家族風か、若者グループ。
その辺りが主体のようだ。
ただ女の子をナンパしようという感じの不届き者は見当たらない。
多分海水浴場という場所が新しいので、そういった文化がまだ出来ていない為だろう。
大変健全でいい事だ。
僕の苦労が減る。
休憩場所の札の裏に描かれた案内図によると、78番は5番目の売店兼食堂兼休憩所を過ぎた先、左の一番海側。
砂浜を
休憩場所は思ったより広い。
8人用の日よけはパラソルではなく四角いタープっぽい形状。
テーブルは8人で座っても余裕がありそうな広さ。
横にボート等を置いておけるくらいの空間の余裕がある。
「とりあえず到着という事で、飲み物を出しておきます」
毎度お馴染み汽車土瓶を7個出す。
中身は冷たい乳清飲料だ。
「水の中が見える水中メガネと、もし使うならという事でライトボートやパーソナルボード。
ボートやボードはあの旗より向こう側は使ってはいけないようです」
水中メガネはテーブル上に、他は日よけの下に並べておく。
「あと、こちらはボートやボードの遊び方や注意だそうです」
店で渡された紙はテーブルの上、水中メガネの横へ。
早速御嬢様方が物色をはじめた。
「どれで遊ぼうか?」
「水中メガネは1人1つずつなんですね」
「ボートを使ってみていいですか、水属性魔法で動かせば楽しそうですから」
「どうしましょう、最初は何もなしで海を体験するのが正しいでしょうか」
「深く考えなくていいのではないでしょうか。必要無ければアイテムボックスに入れればいいですし」
うむ、楽しそうで宜しい。
直視するとまずいけれど。
そう思ったらローラが僕の方を見る。
「リチャード様はどうされますか?」
あまり僕の視界に大きく入らないで欲しい。
じっくりと余計な処を見てしまいそうだから。
「とりあえずボードを誰も使わなければ試してみて、空いていなければ水中メガネだけでいいかな」
「ならとりあえずリディアとハンナ、クレアはボートで、あとはボードでいいんじゃないかな。どうせお兄の事だからお昼も用意しているんでしょ。お昼の鐘が鳴ったらご飯食べにここに集合で、午後については食べながら決めればいいから」
おっと、パトリシアが場をまとめている。
「確かにそうですね。それでは私達はこのボートをお借りします」
このグループの場合、毎回パトリシアがこうやってまとめているのだろうか。
それとも今回はパトリシアが招待側だからだろうか。
これについては後でローラに聞いてみよう。
「じゃあ行こうか。ところでこのボード、どう使うの?」
……このいい加減さがパトリシアだよな。
ただし実は僕もよく知らなかったりする。
「ただこれに乗って水上散歩を楽しんでもいいし、波に乗るなんて事をしてもいい。
詳細はこの紙を読んで、あとは周囲の人を見ていればわかるだろ」
海で遊ぶなんて陽キャな事、前世の僕とは縁遠かった。
当然ボディボードなんて使った事がない。
今回は事前に調べたりなんて事もしなかった。
だから僕の知識はこの紙に書いてある事が全てだ。
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