第26章 事業拡大中

第102話 新規な料理と特急車両

 観光開発で設置する売店や食堂の一部は、既存の業者ではなくうちの商会で新たに事業部を設けて経営する事となった。


 乗り物に乗って遠くへ行き、自然の中へ行くなんて観光はこの国では今までに存在しなかった。


 だからただ場所を提供するだけでなく、観光客がまた来たいと思うような特別な雰囲気としたい。


 設置する施設もテーマを決め、観光地を盛り上げるのにふさわしい形にする。

 うちの商会で売店や食堂等を経営するのはその為だ。

 

 その一環としてその場所にふさわしい新たな料理等を開発しよう。

 事業部内でそういう意見が出た。 


 この国でアウトドアで食べるものと言えば基本的にはテイクアウトの類い。

 一般的なのは、ホットドッグやハンバーガー等を含むサンドイッチ系統だ。

 あとはジュースやスムージーの類。

 暑い季節にはシャーベット系統もメジャーだ。


 しかしそれでは街中と変わらない。

 折角特別な場所に来たのだから、それにふさわしい食体験も提供したい。


『現在観光地ごとの大テーマを決めて、店の外観や構造、テイクアウトを含めた料理まで全て1から考えているところです』


 観光開発推進室長であるゴードンからそんな報告があった。  


 なかなかこれは面白そうだ。

 僕としても是非協力したい。

 そう思ったのでブルーベルに開発してもらった、いかにも『それらしい食べ物』を事業部に横流し、いや提供させてもらった。


 例えば豚汁とか。

 山形芋煮会風、牛肉と芋の煮物とか。

 野沢菜炒め風、肉野菜炒め入りのお焼きとか。


 デザートメニューも勿論提供した。

 群馬名物焼きまんじゅうとか。

 みたらし&粒あんの串団子とか。

 素直な草餅とか、ちょっと違うかもしれないけれど太鼓焼とか

 絶対に欲しいソフトクリームとか。


 ローラやパトリシアに披露した、海の家風焼きそばやコーラもどき、お好み焼きなんてのも勿論提供した。

 更には今までブルーベルが作った珠玉のスイーツ各種まで。

 

 これを出せと商会長権限で言ったわけではない。

 あくまで提案と称してひっかきまわしただけだ。

 決めるのはあくまで推進室の皆さん。

 結果がどうなるか、今から非常に楽しみだ。


 ガナーヴィン西線の延長部分やロト山へ登る観光ケーブルカーの工事はつい先日、着工した。

 6月中旬には完成予定だ。


 また森林鉄道線用の一般客用自走客車も試作がはじまった。

 3両固定編成で連接式を採用し、全長は12腕24m

 機械式ギア切り替えでクモイ503に連結して本線を急行として運転も可能な構造。


 つまりガナーヴィン方面から本線上では急行運転をして、そのままスウォンジー南線へ入り、更にはラングランド森林鉄道へ直通可能な車両という訳だ。


 ◇◇◇


 今日も無事、午前中で商会長&公社長&鉱山長としての決裁業務が終了した。

 昨日は観光事業部を少しにぎやかしたので、本日は工房をじっくりのぞいてこよう。

 そんな訳で午後は工房へ。


 相変わらず本来の執務室にカールはいない。

 なのでキットに聞いてみる。


「今日はカール、どの辺にいる?」


「第一車両工場です。新型低床車両の点検をしていると思います」


 部屋を出て階段を降り、下の車両工場へ。


 ここは非常に大きな空間だ。

 大型車両の3両編成が3本、製造・整備可能な大きさだから。

 今製造ラインに居るのは路面鉄道用連接型5固定編成のクモロ604。

 あとは大型自走客車クモロ502初期型と、初期型路面鉄道車両クモロ600を改造しているようだ。


 キットの言う通りカールはクモロ604のところにいた。

 ゆっくり周囲を歩いて回りながら魔法で点検作業を行っている。

 カールくらいの魔法のレベルなら、走らせなくとも一通りの動作確認とほぼ同等の事が出来る。


 10半時間6分ほどで確認作業が終わったようだ。

 こちらに戻ってくる途中、僕に気が付いて軽く右手を上げる。


「商会長業務も少しは落ち着いたか」


「まあな」 


 頷いて、そして執務室方向へ一緒に歩きながら、何となく思った事を口にする。

 

「開業してまだ1年経っていないのに、ずいぶんと車両の種類が増えたな」


「確かに整備や運用の省力化という意味では正しくない。しかし実際に作って運用してみない事には改良点がわからなかった。


 ただこれからは極力走行性能を揃えていくつもりだ。基本はクモイ502とクモロ503。本線上を走る車両は全てこのどちらかと同等性能になるようにする。


 そうすればダイヤを組む際も楽になるだろう」


 なるほど、確かに本線上を同じ速さで走れるならダイヤを組みやすくなる。

 今は路面鉄道直通の車両が遅いので、本線のダイヤを詰めにくい。

 これ以上詰めるにはグスタカール西駅あたりに通過線を設ける等、複雑な事をする必要がある。


 ただし問題もある。

 路面鉄道の車両の多さだ。

 だから聞いてみる。


「現に路面鉄道を走っている車両もか」


「勿論だ。クモロ604以降の車両はそうなっているが、クモロ600や602、クモワ600についてもクモロ503と同じゴーレムを使うように改造している。今もやっている最中だ」


 カールは目線で改造中のクモロ600を示す。


「あれか」


「ああ。運転室の背後に縦型にゴーレムを設置して、自在接手で台車へ動力を伝達する。方法はクモワ604で確立しているから問題ない。


 ただ路面鉄道車両は数が多い。全部を改造するには時間がかかる。何せ作っても作っても足りないと言ってくるからな。今は5分間隔で直通含めて24本。路面鉄道のみ走る列車が客車5両と荷物車2両で、本線直通とダコタ=ナム線から来る貨物車が連結する車両は客車5両と荷物車3両。

 こんなに人や荷物が行き来するなんて正直想定外だ」


 確かにその通りだ。

 僕は頷く。


「僕にとっても想定外だった」


 ガナーヴィン市街地からゴーレム車が減ったから何とかなっているが、これ以上増やすとこれまた交通の障害になりそうな気がする。

 ただ明るい見通しがない訳でもない。


「ただ4月から荷物運送も鉄道で請け負うようになった。これで個別の荷物配送が減る分、少しは空いてくれる事を期待している」


「ならいいがな。気軽に荷物を運べるようになった分、運ぶ荷物の量も増えましたとなったら洒落にならない。

 そうなったら第2ダコタ=ナム線を作るしかないだろう。地下を走る形で」


 ありえないと言い切れないところが恐ろしい。

 カールの言葉はさらに続く。

   

「とりあえず現状における工房の作業は森林鉄道直通のクモロ310を3編成、ロト山の観光ケーブルカーを2編成、それ以外は基本的に路面鉄道車両の新造と既存車両の改造だ。部品関係を下請けが作ってくれるから前より楽にはなったがな。


 ただ、個人的にはそろそろ同じものを作るのに飽きて来た。出来れば今までとは違う面白い物を作りたい。

 クモロ503のゴーレムで標準化したのは運用上は正しい。ただ標準化とは独自性の無い物を作り続ける事でもあるからな」


 おっと、カール、そろそろ退屈になってきたようだ。

 

「ケーブルカーは独自性はないのか」


「今まで作ったものの応用で何とかなる。面白味が無いとは言わないが、そこまで面白い訳でもない」


 なるほど。

 ならカールや工房のモノづくりジャンキー一派の為に、新たな裏課題を出させて貰うとしよう。


 実は前々から考えていたのだが、忙しすぎて作れと言えなかった車両がある。


「ならクモイ502を超える高速車両、というのはどうだ。今ならクモロ604で使った固定編成、連接車両という方式を使って新たな形を作れるだろう。重心も極力低くして、ゴーレムも更に強力なものを使用して、前面デザインも空力を考えた流線型にして」


 つまり特急用車両だ。


「面白そうだな。でもいいのか」


「これはあくまで特別な車両だ。北部大洋鉄道商会のフラッグシップになりそうな、特別な車両。


 例えば今やっている観光開発、完成すればスウォンジーからガナーヴィンを経由してメッサ―まで行く車両なんてのも必要になるだろう。何ならラングランドからメッサ―まで、という事になるかもしれない。


 距離が長い分時間も当然かかる。今のクモイ502なら1時間半近くかかるだろう。しかしダイヤを見直してうまく隙間を作り、停車駅を今の急行より更に減らせば、そしてクモイ502より更に速い車両を使えば。所要時間をより短縮する事が可能だ。


 それに路線が更に他の領地へ延びれば、より速く走る事が出来る車両が必要になる。ならばそのたたき台となる高速車両を研究する事は必要だ。違うか?」


「面白い」


 カールが本気の笑みを浮かべる。 

 

「なら今の急行、クモイ502の3両編成がたたき台という事でいいか」


「ああ。ただもっと快適にというのはありだ」


「悪くない」


 完全に乗り気になっているようだ。

 でも一言、言っておこう。


「ただ予算はあまり無茶するなよ」


「問題ない。今ある研究開発費の枠内で何とかする」


 これでしばらくはやる気を維持してくれる筈だ。

 ただ念の為、キットにも僕がカールに今言った事を伝えておこう。

 カールが無茶をしないよう、牽制の為に。

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