第100話 観光開発・始動

 普通列車、それも直通ではなく途中ジェスタで乗換であっても1と4半3時間1時間45分あればスティルマン領主館に着く。


 今回はローラがいるので門も玄関もフリーパスだ。

 既に僕だけでもフリーパスになっているような気もするけれど。


 出てきたメイド長さんにローラから声をかける。


「ジャネットさん、ジェームスお兄様は今、誰か来客中でしょうか?」


「あ、ローラ様。ジェームス様は領主代行執務室におられます。今日は昼1の鐘までは面会予定は入っていません」


「わかりました。ありがとう」


 きっとジェームス氏、決裁だの報告書の確認等で忙しいんだろうな。

 領主代行の業務をある程度知っている僕はそう思うのだ。

 しかしローラは全く気にしない様子でまっすぐ領主代行執務室へ。

 

 執務室の扉をノックして声をかける。


「お兄様、ローラです。宜しいでしょうか」


 ここで立ち止まる分だけパトリシアよりはましかななんて思う。

 ただし僕がウィリアム兄に同じ事を出来るかというと、勿論否だ。

 事前に面会予約を入れておくか、さもなければ職務終了後の夕方以降を狙って行く事だろう。

 勿論緊急の場合は話が別だけれど。


「ああ、いいよ、どうぞ」


「では失礼します」


 拍子抜けするほどあっさりと中へ。

 見ると案の定、決裁書類の束と戦っていたようだ。

 僕を見たジェームス氏、慌てて書類をアイテムボックス魔法で仕舞う。


「すみませんリチャードさん、パトリシアさん、ローラがご迷惑をかけているようで」


 パトリシアも既に顔は憶えられているようだ。

 スティルマン領主家滞在中に何かとお世話になったのだろう。

 何と言うか申し訳ない気分になる。


「こちらこそ急に申し訳ありません。お忙しいところ突然お邪魔致しまして」


「いえいえ、どうせローラが引っ張ってきたのでしょう。どうぞこちらへお座り下さい」


 ジェームス氏も僕の状況はわかってくれているようだ。

 少しばかりほっとする。


 いつもの応接セットの方へ案内され、3人対1人でテーブルを囲んで話し合い開始。


「それでローラ、どうしたんだい?」


「実はメッサーまで新しく出来た鉄道に乗って行ってきましたの。それでジェームスお兄様も興味をお持ちになりそうな開発案を……」

 

 主にローラが、所々僕が付け加える形で説明が始まる。


 ◇◇◇


「なるほど、これは確かに面白い案です。大急ぎで検討するに値します」


 ジェームス氏はそう言って僕の方を見る。


「それでこの計画を推進するにはどうすればいいのでしょうか。土地の提供と鉄道施設の建築は勿論こちらで手配するとして、商業施設等はこちらで用意すればいいのでしょうか。それとも土地を提供して北部大洋鉄道商会にお任せすればいいのでしょうか」


 いきなりそこまで踏み込んできたか。

 どうやらジェームス氏、お世辞では無く乗り気のようだ。

 ならこちらも話を進めてしまおう。


「商業施設等の準備はこちらで行いましょう。運営もこちら主体で行おうと思います。

 ですが現地の商会にもある程度は参加を御願いしたいところです。後程業務要項等をまとめたものをお送りいたしますので、それに沿った業者を紹介願えないでしょうか」


 主体は北部大洋鉄道うちの商会でやらないと利益的な旨みが無い。

 ただし地元を無視すると後に必ず問題が起きる。

 ある程度は地元に利益を還元する必要がある訳だ。


「わかりました。それではこちらも至急この案に沿った形で準備を始めましょう。後程事務担当者に連絡させますが、商会のスウォンジー本社宛で宜しいでしょうか」


 少しだけ考えて、そして決断する。


「今週中に推進室をガナーヴィン事務所に発足させます。それまではガナーヴィン事務所長のトーマスに連絡すれば通じるようにしておきますので」


 観光開発予定地のうち2箇所はスティルマン領内だ。

 ラングランド観光も主な客はガナーヴィンからだろう。


 ラングランド関係は領主代行ウィリアムに許可さえ貰えばあとは僕の一存で進められる。

 シックルード領役所との話し合いは特に必要ない。


 ならば観光開発事務に関してはガナーヴィンに拠点を置いた方がいいだろう。


「わかりました。こちらからも連絡しやすい場所を指定していただきありがとうございます。それでは宜しくお願い致します」


「こちらこそ突然の訪問、失礼致しました」


 さあこれから大変だ。

 ガナーヴィン事務所に立ち寄ってト-マスに一通り説明した後、更にスウォンジーの本社に行って要員を出さなければならない。

 人選そのものはダルトンやクロッカー、カールに任せればいいだろう。

 ただその為には当然、3人にこの計画について理解して貰う必要がある。


 今日の午後、これからの予定が一気に埋まった。

 本日は春休みなのだが仕方ない。


「それじゃ私とローラは適当に買い物して、4時の急行で帰るから。という訳で軍資金ちょうだい!」


 パトリシア、どうやら僕の仕事に気づいたようだ。

 しかしその言葉は……

 でもまあ仕方ないか。


「無駄遣いはするなよ。あと一応周りには気を付けろよ」


 そう言って正銀貨5枚5万円を渡す。


「勿論。これでも私もローラも優等生だし。危ない場所は行かないから」


「はいはい。それでどの辺を回るんだ?」


「まずはモレスビー港駅近くに出来た新しい商店街アーケードかな。ハリコフ地区の新市場も捨てがたいんだけれどね」


 ならダコタ=ナム線だな。

 そして僕は路面鉄道の左回りだ。

 ハリコフ地区までならその方が確実。

 本線のモレスビー港駅からハリコフ地区駅までは1時間に3本しかないから。


 オルドゲルグの駅で2人とはお別れ。

 僕は路面鉄道にしてはやっぱり長い、貨物含めて7両編成の列車に乗って、ハリコフにある商会事務所を目指す。


 ◇◇◇


 ガナーヴィン事務所でトーマスに説明した後、昼の急行に乗って三公社前へと移動。

 本社でダルトンとクロッカー、カールとキット4人を集めて会議形式で説明。

 更に途中で経理部長も加えて予算措置まで話を詰める。


 その後更に森林公社へ、そして最後は領主館へ。

 領主館でウィリアム兄から観光と関係ない面倒な話なんてのもあったりした結果。

 一通り話を通した頃にはもう外は暗くなり始めていた。

 

 やっと帰宅すると、既にローラとパトリシアは帰宅済み。


「お兄が遅かったから、折角買ったお野菜やお肉、夕食で食べられなかったじゃない」


 パトリシアにそんな風に怒られてしまった。

 その後の夕食&デザートで機嫌はなおったようだけれども。


 ◇◇◇


 その後も、

  ○ 北門自由市場探索第2弾

  ○ 元からある方の森林鉄道乗車体験

  ○ スティルマン領ハリコフ地区の自由市場探索(第1弾、第2弾)

等、1週間まるまる遊び尽くし、ローラとパトリシアは学校へと戻っていった。


 そして休み明け。

 僕は新たな観光プロジェクトも含めた御仕事の山に忙殺されるのだった。

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