第99話 自由市場で散財中

 夕食後、更に時間をかけて検討した結果。

 計画はローラ、パトリシアとともに更に練られた上、こんな感じでまとまった。


 1 メッサー海水浴場計画

  ① ガナーヴィン西線を2離4km延長し、専用駅を設置

  ② 夏休みシーズンはスウォンジーから直通列車を走らせる

  ③ 駅と砂浜を結ぶ場所に次のような施設を設置

   ○ 用品貸出処(水浴着、ビーチパラソル、マット等)

   ○ 有料更衣室・シャワー室

   ○ 淡水プール

   ○ 食事処

   ○ お土産販売所

  ④ 浜辺にも食事処や休憩所を設置

  ⑤ 食事処や休憩所、土産販売所の一部は地元商会等を入れる


 既存駅から専用駅へ線路を延ばすというと、何となくガーラ湯沢駅っぽい感じがする。

 ガーラ湯沢はスキー客用で、こちらは海水浴場だけれども。


 2 ロト山ハイキングコース計画

  ① グスタカール中央駅から登山口までの200腕400mの道を整備

  ② ロト山脈第3ピーク(標高438.5腕877mまでハイキング用の道(総延長3離6km)を整備

  ③ 途中、ケーブルカー(路線長810腕1620m、標高差260腕520m、単線交走式)を設置

  ④ ルート上3箇所に休憩所(食事、お土産販売)を設置


 ハイキング用の道は最短コースの他、やや緩やかで歩きやすいコース、途中で沢や小さな滝があるコースの3つを整備する計画。

 高尾山か筑波山といったところだろうか。


 3 ラングランド森林鉄道・滝観光開発

  ① 森林鉄道に客扱い可能な自走客車を投入

  ② 石灰石鉱山下より手前、最終橋梁付近に専用駅を設置

  ③ 専用駅から滝まで遊歩道を整備

  ④ 景観を壊さない程度の休憩所(食事、お土産販売等)を設置


 許可は領主代行ウィリアムお兄様から取る必要がある。

 しかし事実上は森林公社と鉄道商会を運営する僕の専権で開発可能。

 森林鉄道という作業用鉄道に乗客を乗せるというのは、気分的には黒部峡谷鉄道みたいなイメージだと思えばいいかな。


「どれも楽しそう。絶対夏休みに間に合わせてよね」


「確かに楽しそうです。今までにない楽しみ方ですし、何かわくわくします。

 なら明日、早速ジェームスお兄様にお願いしておきましょう」


 えっ! ちょっと待ってくれローラ。


「領主代行に事前予約無しで面会するのはまずいだろう」

 

「家族が会いに行くのですから問題はありません」

   

「でも昼間行っても仕事で忙しいだろ?」


「今は仕事も領主館でしている筈ですから問題は無いと思います。急ぎでない仕事は後に回して貰えばいいだけですから」


「領主館にいるなら会うのも簡単そうだね」


 何処の妹も兄には強いものらしい。

 僕にはちょっと出来ない行動だ。


「そうですね。折角ですからスウォンジーの自由市場を見てから行きたいです。朝、まずは市場に出ているものを見て、それから列車に乗って行けばいいと思います」


「急行は朝7の鐘の次は昼12まで無いけれど」


「9の鐘くらいの普通でいいと思います。たまには違う列車に乗ってみるのも良さそうですから」


 つまり執務時間中に強引にお邪魔する訳か。

 僕としてはどうにも気が引ける。

 しかし止められそうに無い。


 仕方ない、せめてジェームス氏に肉でもお土産に買っていくとしよう。

 僕が示せる誠意はそれくらいのものだ。


 ◇◇◇


 翌朝。

 スウォンジー北門の自由市場は朝7の鐘からという事になっている。

 しかし実際はその前から営業している連中も多い。

 そしていいもの程、早く無くなるものだ。

 

 だから6の鐘で朝ご飯を食べて、6半の鐘が鳴る前に家をゴーレム車で出発。

 10半時間6分程度で自由市場へ到着。

 3人で品定めを開始。


「山菜が豊富なのですね、シックルード領は」


「山間の田舎だしね、基本的に」


 山菜と言っても日本とはかなり種類が違う。

 クマネギ、オオアマナ、タンポポ、イラクサといった類いだ。


 あとは野菜としてホワイトアスパラガス、アーティチョーク、ブルスカンドリといったような類いが多く出ている。

 僕としては馴染みのものばかりだが、ローラには物珍しいようだ。

 ならこういうのはどうだろう。


「何なら此処で買った物を明日あたり料理させようか。サラダにしてもいいし、揚げても美味しいからさ」


「是非御願いします」


 そんな訳で新鮮そうな、そしてガナーヴィンには無さそうな野菜類を店々で購入していく。


「あと鉄道で食べるものも買っていこうよ。あのチーズとか」


「大きすぎるだろ、あれは」


「でも美味しそうですね」


 ローラがそう言うのでは仕方ない。

 とろとろタイプのフレッシュなチーズを購入。


「ならパンも必要だよね」


「列車で食べるなら出来合いのサンドイッチでいいだろ」


「どうせこういう場所で買うなら見た目にも美味しそうな方がいいよね。途中で食べられなくても帰ってからブルーベルに御願いすればいいし」


 パトリシア、完全に確信犯だ。

 しかしローラも楽しそうだからいいか。


 僕のアイテムボックス魔法は、僕の体重程度の物までは収納出来る。

 だからまあ、多少多めに買物をしても大丈夫ではあるけれども。


「あそこに並んでいる茶色い丸い物は何でしょうか?」


「お焼きという食べ物。肉や野菜などを炒めたものや、それにチーズを和えたもの等を小麦粉の皮で包んで焼いた物だ」


「店によって美味しいところとそうでないところの差が激しいから注意が必要だよね。あと焼いた奴だけじゃなくて揚げたものあるよ。私はそっちの方が好きかな」


「ならどのお店が美味しいでしょうか?」


 全部の店をくまなく見て回っているのでなかなか進まない。

 僕としては早くジェームス氏用の肉を探したいところなのだけれども。


 歩いて説明して、買って収納して。

 1時間くらい歩いたところでやっと良さそうなものがあった。

 お値段が他より高めなので、売れ切れていないのが幸いだった。


 念の為魔法で品物を確認する。

 どうやら偽物では無さそうだ。

 それでは一応店主に聞いてみよう。


「この悪突猪オツコト、何処で捕れた物なんだ?」


「半月前にジムサンの山沿いで出てきたものだよ。ちょうど水属性魔法持ちがいたから倒してハーブと塩で漬けた訳さ」


 うん、大丈夫だろう。


「ならこのパンチェッタのブロックを6本くれ。3本ずつ袋に入れて貰えると助かる」


「おいよ、まいどあり」


 よし、これでお土産が確保出来た。

 そう思った時だ。


「あと3本追加で御願いね」


 パトリシア、追加しやがった。

 どうやら自分達で食べる用らしい。

 勿論自分で調理するなんて事ではない。

 後でブルーベルに渡して御願いするのだろう。


「ありがとう。追加の3本は別の袋にするかい」


「うん、御願い」


「なら一杯買ってくれたから少し負けて、合計で正銀貨3枚3万円だ」


 勿論パトリシアが支払う訳では無い。

 全部僕の財布からだ。


 でもまあ、そこまで高くはないからいいか。

 そう思いつつ、僕は正銀貨を取り出した。

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