第97話 行楽地用の料理
この停車場は石灰石鉱山の西南側、谷2つが合流する場所にある。
谷が合流するY字形の上部分を平らに削って線路を敷設している形だ。
鉱山の採掘現場そのものはここから更に
採掘した石灰石は太いワイヤーを使った索道でここまで下ろしている。
「あの石を運んでくる籠は人は乗れないのでしょうか」
ローラがそんな恐ろしい事を僕に尋ねた。
「あれは2組のゴンドラにロープをつけて、石を積んだ重さでもう片方を引き上げるというシステムなんだ。人が乗れるような安全性は確保していないので、やめた方がいいと思う」
「そうだよ。見るからに怖そうじゃない」
「でも見晴らしが良くて楽しそうに見えます」
確かに観光用と考えれば乗用のロープウェイ開発なんてのもいいかもしれない。
基礎技術そのものは既に存在はしなくもないし。
ただもう少し商会に余裕が出てからの方がいいな。
今は商会内は大忙しだから。
商会の出張所に声をかけ、1時間ほど滝まで行ってくる旨を告げて、そして滝へ。
道はゴーレム車が通れるほどではないけれど、焼土による簡易舗装がされていて歩きやすい。
「この道は何の為に作ったのでしょうか」
この辺は報告書で読んだから答えられる。
「元は先程渡った橋を作るために使用したらしい。今も橋の点検作業で使うので整備してある」
歩きやすいがそこそこ急な下り坂を歩いて
簡易舗装の道は下流側へ続いているが、僕達がいく滝は上流方向だ。
「この河原もいいですね。水が綺麗で爽やかで、夏なら涼むにはいい感じです」
「確かにそうだよね。ここで甘い物のお店でもあったら最高」
パトリシアの言いたい事はわかる。
峠の茶屋みたいな存在だな。
しかし目的地はここではない。
ここからは河原を歩いていく形になる。
ただそこそこ歩きやすい部分があるので、そこを歩かせて貰う。
おそらく先人が歩きやすいように土属性魔法で整備したのだろう。
一応魔力探査と風読み魔法で周囲を警戒しながら歩く。
今のところ魔物その他危険なものの感知はない。
まあ安全だろうと思っているからローラとパトリシアを連れてきているのだけれども。
ゆるいカーブを曲がると水音が一段と激しくなった。
滝が見えている。
「大きいですね」
「本当、これは結構いいかも」
昨日読んだ資料によると3段の滝になっていて、今見えている最下段は落差
水量は結構多い。
滝つぼの周りはそこそこ開けていて広い。
足が水に濡れないよう歩いても結構近づく事が出来る。
滝から発生する水しぶきを感じる事が出来るくらいの距離まで。
もちろん少し離れて滝全体を見るのもいい。
河原部分がそこそこ広いので楽しみ方は色々だ。
もちろん滝壺内に突入なんてすると危険だけれども。
「これは見に来る価値があると思います。特に夏なんかは涼しくて気持ちいい筈です」
「今はまだ肌寒いけれどね。で、とりあえずお昼にしようよ」
「はいはい」
水しぶきがかからない、滝全体が見える位置を選んで、アイテムボックスから折り畳み式の椅子とテーブルを取り出す。
この国の上流階級ではガーデンパーティなるものが一般的らしいので、こういった道具類は充実しているのだ。
中小貴族の三男坊はそんなパーティに縁がないのだけれども。
前世における僕の知識では、河原でやるパーティといえば芋煮会。
残念ながら東北人でないので実際に参加した事はない。
あくまで趣味や気分、という事で。
ただこの国には芋煮会なんてものは無い。
いや、似たようなものが農村地域で存在はしている。
野外で大きな鍋を用意し、根菜とアヒル肉、小麦粉団子を鍋に入れて、ビールと砂糖、ビール酵母味噌を入れて煮たてて食べるというジブロ鍋だ。
ただジブロ鍋は豊作を祝う祭りで食べる農民の食べ物。
貴族であるローラには今ひとつ馴染まないだろう。
ただ屋内で食べる貴族っぽい料理と同じでは面白くない。
そんな訳で今回も、前世知識とブルーベルの協力で出来た新たな料理を披露させて貰おう。
「お兄、また新しい料理を持ってきているでしょ」
パトリシアにいきなりそんな事を言われた。
「何でそう思う?」
「お兄の表情で何となくわかるんだよね。何かを隠し持ってきたなって」
相変わらず食べ物については鋭い奴だ。
でもこれですんなり説明が出来る。
「今回の料理は本来は夏向きのものだ。少し貴族らしくはないけれどさ」
テーブルの上に特製の鉄板を出す。
木製の台がついていて、鉄板が高温になってもテーブルまで熱くならないタイプだ。
大きさは前世の新聞紙1面分。
このガーデンテーブルの6割くらいの広さとなる。
「何、これでお肉でも焼くの?」
「勿論それも悪くないけれどさ。まあ見ていてくれ」
まずは鉄板に豚挽肉とキャベツ千切りを入れ、加熱しながら炒めていく。
挽肉から脂が出て、キャベツがしんなりしたら麺投入。
魔法で麺全体に熱を通しながらほぐして炒め、しっかり炒めきったらソース投入。
ソースが馴染めば焼きそば、完成だ。
さっと3等分して皿にもりつける。
「何か私の知っているパスタと大分違うよね。太さも臭いも」
「他の国から来た本で読んだ料理だ。ブルーベルが再現してくれたから味はそう悪くないと思う」
「目のまえで料理してそのまま食べるというのは珍しいと思います。大掛かりなガーデンパーティでたまにあるくらいです」
「これはそこまで大掛かりじゃないけれどさ」
皿に入っていてフォークで食べるというのが少し個人的美学に反している。
この手の焼きそばは安っぽい白いスチロール容器か透明のプラ容器に入っていて、割りばしで食べるのが正しいと思っているから。
しかしここは日本から見れば異世界。
これくらいの妥協は仕方ない。
「それじゃ食べていい?」
「勿論だ。あとこれは飲み物。これも特別製だ」
じつはこの飲み物、ブルーベルが3か月試行錯誤した結果、ついに完成した『コーラもどき』である。
色はやや薄いが味はまさにコーラ。
パトリシアはまず飲物を口に運んで、そして顔をしかめる。
「何この飲み物。ビールじゃないよね。泡が凄いし何かきつい」
「酒は学生には出さないさ。ゆっくりよく味わってみてくれ。そのうち癖になる」
「このパスタは美味しいです。甘めの味なんですね」
「これはウスターソースと似ているけれど、もっと甘いソースなんだ。動いて疲れた時にちょうどいいかなと思って」
この国にもウスターソースは存在する。
でもお好み焼きソースは無い。
だからこれも独自配合で作った。
勿論僕ではなくブルーベルが、だけれども。
「確かにこの飲み物、刺激的ですね。でも心なしか、何かこの食べ物にあっているような気がします」
実は焼きそばとコーラだけではない。
お好み焼きと大判焼もスタンバイ済みだ。
更に独自料理ではないけれど、フライドポテトなんてのもアイテムボックスに入れてある。
なお大判焼きは中身があんこ、クリーム、チーズクリームの3種類準備。
今川焼、おやき、太鼓焼という説もあるが、僕がいた場所では大判焼きとして売っていた。
この国に今川さんという名字は無いし大判小判も無い。
それなら太鼓焼が訳として無難なのだろうか。
まあその辺は後に考慮する事としよう。
※ 索道 ゴンドラ
索道とは、空中に架け渡したワイヤーロープに運搬容器(索道の場合はゴンドラと呼称)を吊り下げて旅客や貨物を運送する施設の事。
ロープウェイとかスキー場のリフトも索道の一種。
※ お好み焼き
書き手の実家は広島文化圏でした。なのでお好み焼きは大阪風では無く広島風です。ソースもどろソースではなくお好み焼き用ソースです。念の為。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます