第25章 観光開発の決定

第98話 海水浴場計画

 家に帰って夕食までの時間。

 3人でリビングのテーブルを囲んで作戦会議を実施中だ。


「……という訳で、新たに作ったローカル線は乗客の数がそれほど多くないだろうと思うんだ。

 勿論経費がかかりすぎるようなら領主家から補助を出して貰う事になる。でも遊びで出かける客が増えて補助が必要なくなるなら、当然その方がいい」


「だからお客さんが来るように遊べる場所を開発しようって事なのね」


「そういう事だ」


 そう、これは観光開発をいかに進めるかという作戦会議だ。


「私のお勧め場所はやっぱりメッサーかな。あの砂浜、やっぱりいいと思うよ。あとはあそこで一休み出来たり、美味しい物を食べられる所があれば最高」


「私は今日行ったあの滝が良かったです。ただあそこはあまり大人数で行くのはあわない気がします。多くても100人位でしょうか。

 お店はやっぱり欲しいですね。あと水に濡れた服を着替える場所があると嬉しいです。


 あとはまだ行った事はないのですけれど、前にリチャード様が行ったロト山の上というのも良いと思います。ガナーヴィンや海が見える景色というのを是非見てみたいです」


 つまり全部の場所が魅力的だという事か。

 いいだろう。

 その方針で進めよう。


 さて、ローラとパトリシアなら、本当はローラの提案から考えたいところだ。

 ただし今回はパトリシアの提案の方を先に考えたい。

 何故なら路線の採算という事情があるからだ。


「なら3箇所とも開発は考える事にしよう。まずは最優先のメッサーから。

 これは採算的な問題なんだ。スウォンジー南線は石灰石鉱山が本稼働すれば、ある程度の採算が期待出来るからさ」


「確かにそうですね」


 ローラ、納得してくれた。


「それでお兄、どうするつもりなの? どうせもう何か考えてあるんでしょ」


 まあパトリシアの言う通りだ。

 前世日本の丸パクリだけれど、既に考えは出来ている。


「とりあえずこれがメッサー付近の地図だ。鉄道はまだ書かれていなかったから、手書きで書き加えた」


 線路がメッサーの街の北西側まで延びているのがこの地図でわかる。

 終点のひとつ手前の駅の方が街に近い事がこの地図で明白だ。


 昨日は終点まで乗って、そこから海沿いに街まで行って、街にある漁港まで行って戻ってきた。

 立ち寄った浜辺は街の側では無く駅に近い場所だ。

 そして砂浜は北西側へとずっと続いている。


「この線路はこの辺りに新しく港を作るつもりで作ったと思うんだ。でも砂浜はこの先北西側へずっと続いている。そしてこちら側は人家もほとんど無いし、浜辺を使っている人も特にいない」


 日本と違ってこの国は人口密度が低い。

 だから街から離れて畑が作れない場所はほとんど未利用のままだ。


「だから線路をもう少しだけ延ばす。そうすれば港にも関係ない、ほとんど誰も使わない浜辺に鉄道で行けるようになる訳だ」


「確かにそうですね。これくらいなら延長しても問題は無いと思います」


「つまり海で遊ぶため専用の駅を作れるって事ね」


「そういう事だ」


 本当は線路を更に先、ゼメリング侯爵領ディルツァイトまで延ばす為の布石でもあるのだが、今は言わない方針で。


「更にここに川がある。この川はやや高さがあるから海水が混じらない。もう少し上流からはメッサーまで上水として取水しているくらいだ。

 この川から分水して水を引く。そうすればある程度真水を確保出来る」


「料理や生活用の水ですか?」


 いや違うんだローラ。

 まあわからないだろうけれど。


「料理用は念の為、水属性の魔法使いに出して貰う方がいいだろう。ここで作るのは水泳場だ。騎士団にあるような訓練の為のものじゃない、遊びの為の水泳場だ」


「何で海でも泳げるのにわざわざ水泳場を作るの?」


 山ばかりのシックルード領育ちではわかるまい、パトリシア。

 そう思ったところでローラが口を開く。


「そういえば海の水は塩分でべたつくと聞いた気がします。それを防ぐ為でしょうか?」


 ローラは知っていたようだ。

 僕は頷く。


「その通り。海で遊んだ後、こちらで泳げば塩分でべたつく事はないという訳だ。もちろんシャワーで海水を流す場所も作る。その為にも真水は必要だ。


 あとは水着のレンタルや着替える場所、日陰で一休みする場所と、食事が出来る店を出す。メッサーに行った時に食べたような美味しい海鮮を出すお店と、今日の昼に食べたような簡単な食事を出す店の両方だ。


 簡単な方は紙皿で提供して海辺で食べてもいい。海辺でのんびりする様にガーデンパーティで使うような日陰を作る傘をお店で貸し出すのもありだ。

 施設のイメージはこんなものでどうだろうか」


 パトリシアがうんうんと頷く。


「確かにそれだけあれば、夏は凄く楽しいよね。私なら何回も行きそう」


「そうですね。日帰りで避暑に行けるような感じです。家族4人でも1日遊んで正銀貨1枚1万円程度なら、何回か行ってみたいという人は大勢居るでしょう。

 なら場所をもっと細かく詰めましょうか」


「だな」


 3人で地図を読みながら考える。


「もし港をここに作るなら、1離2kmは離れていた方がいいよね」


「そうだな。川から水を引くことを考えて、さらに河口のそばでは水の流れが泳ぐのに適していない可能性があるから……」


「あと施設を建てられる広さが無いとね。砂浜もほどよい広さで……」


 検討は白熱していく。

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