第87話 帰って来たという感覚?
無事敵地を脱出。
攻撃とか妨害無しで帰って来る事が出来た。
これは僕という存在が警戒されていないからだろうか。
それとも身分を明かさないよう行動したおかげだろうか。
僕としては前者だと思いたい。
マルキス君も旅行について来ようとする様子は無かったし。
勿論今後はより一層行動には注意を心がけるけれども。
ところでゴーレム車でスティルマン領へ入った瞬間、ふと『帰ってきた』と思ってしまった。
僕はシックルード伯爵家の一員なのに。
ガナーヴィンで仕事をしている事が多いせいだろうか。
それともローラの存在があるからだろうか。
まだ婚約段階に過ぎないのだけれども。
さて、帰ってきたのはいいが夜遅くなってしまった。
スウォンジー行きの終列車は出た後だ。
でも一応、事務所に車を返しに行っておこう。
事務所そのものは宿直がいるからこの時間でも問題無い。
ゴーレム車を駐車場に停め、事務所に顔を出す。
「あれ商会長、何でこんな時間に?」
運良く当直の1人が知っている顔だった。
ガナーヴィン事務所の庶務担当をしているトビーだ。
「ちょっとな。今からゴーレム車で帰るのも何だからガナーヴィンで泊まろうと思う。おすすめの宿はあるか?」
「商会長ならスティルマン領主館で泊まれるんじゃないですか?」
おい、待ってくれ。
「約束なしにこんな時間飛び込む訳にもいかないだろう」
「案外歓迎してくれると思いますけれどね」
そういう訳にもいかない。
まあ軽口というか冗談だろうけれども。
「あと1時間くらいで三公社前行きの貨物列車が出ます。もしスウォンジーに帰るなら便乗できますけれど」
そうか、確かにそういう手段もあるな。
しかし今日はやめておこう。
家の皆ももう寝ているだろうから。
「あちこち動いて疲れた。だから宿がいい。狭くていいから個室があるところが」
鉄道移動やゴーレム車移動を含めるとほぼ動きっぱなしだったのだ。
いい加減疲れたし眠い。
「そうですか。この時間でしたら路面鉄道右回りに乗って3つ目、パーシング停留所すぐ近くのメルクーレがいいですかね。深夜まで受付していますし狭いけれど個室もあります。
パーシング停留所で降りればすぐわかる筈ですよ。営業中は看板を灯火魔法で照らしていますから」
「ありがとう、助かる」
「部屋数は多いんで大丈夫だと思います。この事務所立ち上げ時も良くあそこに泊まりましたから」
「わかった」
路面鉄道は日付が変わる頃まで動いている。
勿論昼間よりは本数は少ないが、それでも1時間6本はある筈だ。
路面鉄道のハリコフ地区停留所は事務所から歩いて5分程度。
到着するとほどなく7両編成の列車がやってきた。
客車が5両、貨物車が2両だ。
客はそこそこ乗っているが、この時間は荷物扱いが結構ある模様。
この停車場でも車輪付台車をおろしている。
ロングシートの座席はそこそこ埋まっている。
概ね1人おき程度に座っている感じだ。
空いていた段差上の奥へと陣取る。
会話を聞いていると日用雑貨品や服飾品の業者が多い模様。
空いているこの時間の路面鉄道で配送や集荷をやっているようだ。
3つめのパーシング停留所に無事到着。
この停留所にも配送関係の業者らしい者がいた。
こちらは台車ではなく箱を3つ、準無蓋貨物室に積んでいる。
この集配作業もうちの商会で受託すれば便利になるだろうか。
そんな事をふと思った。
今は荷物と一緒に人が動くのが当たり前になっている。
これは鉄道輸送が個人や商会の輸送用ゴーレム車の代替とされているからだ。
これが預けるだけで済めば配送関係は劇的に楽になるだろう。
集荷は主要駅等で受付。
受け取った後に仕分けをして停留所ではなく現場まで配送という形で。
配達範囲はガナーヴィン~スウォンジー間の市街地とすれば出来ない事はないように思う。
勿論人員はある程度必要にある。
しかしガナーヴィンなら人を集めやすい。
スウォンジー時代の採用の困難さが嘘のようだ。
魔法持ちのゴーレム操縦者だって募集をかければすぐ集まったし。
よし、明日の空いた時間で宅配便事業について素案や資料を作ろう。
鉄道の利便性を向上させるだけではない、
より一層の収益を得る事も出来そうだ。
鉄道事業そのものは儲かりにくい。
だからこそこのような稼げる事業を増やす事は重要になる。
資料を作ったら商会で検討だ。
またプロジェクトチームを作って検討させればいいだろう。
さて、それはそれとして今は宿へ行こう。
トビーの言う通り宿は灯りがあるのですぐわかる。
予想以上に大きなしっかりした建物だ。
部屋は空いているだろうか。
そう思いつつ中へ入って受付へ。
「予約していないのですけれど、泊まれますでしょうか」
「
良かった、空室はあるようだ。
値段もかなり安い。
この値段なら個室はベッドの大きさぎりぎりくらいだろう。
でももうそれでいい。
早く横になりたい気分なのだ。
「個室で御願いします」
部屋の魔法鍵を受け取り場所を聞いて、そのまま直行。
予想通り部屋は狭かったが、一応デスクもついている。
資料作成くらいなら出来そうだ。
しかし今日は疲れた。
敵地という事もあって緊張しっぱなしだったというのもあるのだろう。
身体が重く感じる。
服を脱いで下着だけになり、そのままベッド上、シーツの間に潜り込む。
あっという間に意識は途絶えた。
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