第21章 他社製鉄道体験

第82話 目的地到着

 今回は急遽予定を決めたし、目立たないよう1人旅。

 ただスウォンジーの自宅からゴーレム車ではちょい遠い。

 だから朝一番の直通急行でガナーヴィンのハリコフまで。


 急行列車の転換クロスシート、やはり座り心地が良い。

 ゴーレム車の革張り座席よりも広さ感があって僕は好きだ。


 ハリコフの会社事務所でゴーレム車を1台借りる。

 借りるというか、元々は僕専用に買ったものだったりする。

 僕が使わない時は営業用にも使っていい、という事になっているだけで。


「気をつけて行ってきて下さいね」


「ああ」


 顔見知りの事務員さんに見送られて駐車場へ。

 なお車はアシスタ、バリバリの商用車である。

 牽引ゴーレムも通常タイプノーマルの1頭立てで無改造。

 つまり速度は遅い。


 でもまあ仕方ない、という事でガナーヴィンから第二街道へ。

 しばらく西に向かった後、海岸線に沿って南下。


 本日の行程は凡そ90離180km

 1日がかりの距離だ。


 しかしゴーレム車の運転は嫌いではない。

 それに商用車は荷物を積載しても問題ないよう足回りが固い。

 結果的に挙動がスポーツ車に似ていてそこそこ楽しかったりする。


 途中、食事すら運転しながら食べるなんて状態で、ほぼアシスタの最高速である時速13離26kmで飛ばす。


 暗くなる前に無事エルダスの街に入った。

 雰囲気からしてそこそこ栄えている感じだ。

 ガナーヴィン程ではないが、少なくともかつてのスウォンジーよりは大きく賑やかに感じる。


 これで領都ではないのだから、マシオーア領はそれなりに豊かなのだろうか。

 ただ僕が事前に調べた限りではそんな情報はなかった。


 マシオーア伯爵家は格式こそそこそこ高め。

 しかし財政的には今ひとつ。

 20年前の不況で確かマールヴァイス商会に多額の借金があった筈だ。

 この街の様子ではそんな感じは受けないけれども。


 さて、本当は真っ先に鉄道を見に行きたいところだ。

 しかしまずは宿の確保が先。

 今回は急に決めたので予約していない。


 事前に調べておいた宿のひとつへ直行。

 とりあえずゴーレム車の駐車スペースはあったが、部屋は空いているだろうか。


「予約していないのですが、今日から2泊3日、ゴーレム車の駐車込みで空いていますか」

 

 受付のおばさんは宿帳をめくって確認する。


相部屋ドミトリーと上級個室、最上級個室が空いております」


「上級個室は2泊3日で幾らですか」


正銀貨6枚と小銀貨4枚64,000円になります。食事は別料金で食べる時に支払い。駐車料金はサービスです」


 安くないが仕方ない。

 相場的には妥当な線だ。


「わかりました。それで御願いします」


 とりあえず部屋の確保には成功した。

 それでは次の任務ミッションだ。

 金を先払いしつつ尋ねる。


「ところでこの街に新しい交通機関が出来たってさっき見た新聞に書いてあったけれど、どんなものなのですか?」


「大したものではないですね。実際に乗った者からはそう聞いています。乗合ゴーレム車と同じ時間と料金。そのくせ乗り場は街の中心から外れた場所。


 新しもの好きの領主代行がガナーヴィンで出来た新しい交通機関に対抗心を燃やして急造させた玩具。そういう評判です」


 なるほど、住民からはそう見られている訳か。

 確かに鉄道の駅を従来から栄えている街の中心に作るのは難しい。

 スウォンジーでさえ従来の街の真ん中は通せなかった。

 ガナーヴィンでは地下鉄と路面鉄道という方法で無理矢理通したけれども。


 やはりこうやって他の街の、他の鉄道を見に来ると勉強になる。

 そう思いつつ次の質問。


「まあ後学のために、仕事の空き時間に一度見に行ってみようと思うけれど、どの辺にあるんですか」


 出来たばかりなので入手可能な地図には載っていなかったのだ。

 だから此処で聞いてわかれば助かる。


「旧港地区の南側外れです。街中からは結構遠いですよ。手狭になって再開発待ちの場所ですから何もありませんし。

 それに今は周囲がほとんど廃墟ですから治安も悪くなっています。暗い時間は近づかない方がいいですね」


 お、やるな、ここの領主代行。

 港ごと再開発して更にこの街の価値を高めようとしているのだろう。

 なら鉄道も評判とは逆に期待できるかもしれない。


「わかりました。ありがとう」


 さて、部屋を確認して、それから鉄道とご対面だ。

 あとは夕食と朝食も買ってくるとしよう。


 旅行に出た時の食事は、宿で食べるより街中の市場で買い漁る方がいい。

 宿の食事なんて何処もそう大して変わらないものだ。


 名物料理なんてのがある場合もある。

 ただ宿の食堂で出る名物料理なんてのは、往々にしてその地域本来の名物とは微妙に違う代物だったりするのだ。


 ならば直接その土地の市場で売っている物を買って食べた方が面白い。

 地元の人が普通だと思っているものにこそ独自性があったりするのだ。 


 魔法鍵チップで鍵を開けて部屋の中へ。

 上級個室という割には普通の部屋だ。

 ベッド2つ、テーブル、ソファー。

 この前ガナーヴィンで僕が泊った部屋とほぼ同じ感じ。


 料金も同じくらいだから、まあ相場通りではある。

 個性を感じないが空間としては使いやすそうだしいいだろう。


 僕は持ってきた地図をベッドの上に広げる。

 ベッドの上に広げる理由はテーブルより面積が広いからだ。


 旧港地区の線路がありそうな場所に目星をつける。

 あとは一番賑やかで地元の人が多そうな市場街の場所も。

 このホテルからなら歩いて行って帰って来れそうだ。


 ならゴーレム車は置いておいた方がいい。

 駐車場所を探すのに困るなんて事を考えると。


 僕は地図を仕舞い、そして部屋を出て魔法鍵をかける。

 それでは行って来るとしよう。

 

 鉄道も楽しみだが、実は市場も結構楽しみなのだ。

 此処エルダスは海沿いで港の街。

 魚介類のいいのがある事が期待出来るから。

 

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