第19章 ある解決策
第73話 ローカル線敷設計画
シックルード領とスティルマン領内に、更なる新線敷設の話が出ている。
1月3日、ローラを送りがてらスティルマン伯爵家に御挨拶へと向かった時。
そのままジェームス氏に執務室に引っ張り込まれ、構想を説明されたのだ。
ローラも含め、3人で執務室の応接テーブルを囲んで会議を実施。
テーブルにはスティルマン領の地図。
ガナーヴィンが中央で、そこから手書きで南北へと線が延びている。
「つまり領地北部のリヴーニへ向かう線と、南部のバラクレアへ向かう線、西のメッサーへ向かう線をそれぞれ整備する。そういう事ですね」
僕の確認にジェームス氏は頷いた。
「ええ。リヴーニもバラクレアもスティルマン領の中では農業に適した場所です。しかし交通が不便なのでガナーヴィンに近い一部の場所しか開発が進んでいません。
道路を良くするという方法もあります。しかしそうするとゴーレム車を維持出来る中規模以上の商会くらいしか儲からないという事になりかねません。
ダコタ=ナム線を更に南北に延長する形で延ばせば、誰もが安価に使える運送機関が出来る事になります」
なるほど。
「この南北路線上には大きな街は無いのですね」
「ええ。現状はグスタカールより更に小規模な集落ばかりです。ですが鉄道の開業とあわせて大規模開発を行う事になっています。
西へ向かう路線はスティルマン領有数の穀倉地帯を通ります。作物は稲が主体ですが、他の農産品も多く鉄道の需要はそれなりにあると思われます。
また終点のメッサーは港です。今は漁港としてのみで貿易港としてほとんど発展していません。ですが鉄道と結ぶ事で大きく変わる可能性があると思っています」
なるほど。概ね理解出来た。
ただ現状では南北の路線は貨客ともに扱いはそれほど多くないだろう。
西、メッサーに向かう線はそこそこ需要があるかもしれない。
メッサーは漁港としてはそこそこ大きな街のようだし。
「メッサーに向かう線だけは必要があればシックルード領へ向かう路線のような高規格に出来るようにしておく。南北に向かう方は当座はそれほど高速で走行しないことを前提でよろしいでしょうか」
「そうですね。当初はそれで充分でしょう。用地も一応複線に出来るよう確保しておきますが、当座は単線で十分かと思います。
車両も今、路面鉄道やダコタ=ナム線を走っている赤い小型車両で十分でしょう。本数も朝夕以外は2時間に1本程度で問題はありません。
ただ朝の一番列車だけはハリコフの自由市場の時間に間に合うような設定で御願いします」
了解だ。
更に路線策定から土地確保、こちらから派遣する人員等について話した後、ようやく執務室から解放されたのだった。
◇◇◇
シックルード領の方は国の調査団が帰った旨を報告に行った際、ウィリアムの執務室で話があった。
「今度はこんな感じで新しく路線を建設しようと思っている。リチャードはどう思う」
そう言ってウィリアムが開いた地図には、
○ スウォンジー北線 スウォンジー北門~トレバノス(
○ ジェスタ北線 ジェスタ西門~ジェイブス(
○ スウォンジー南線 三公社前~ラングランド(
の3路線が描かれていた。
「何かスティルマン領の領主代行からも似たような話が来ましたね。あちらはスティルマン領内の路線ですけれど」
「そりゃジム、いや向こうの領主代行とも話をしているからね。先月にリチャードの会社の発足式で会った時にも話をしたし、その後、手紙でもこの話題について検討したしさ」
今の言い間違いはわざとだろう。
勿論調べもついている。
ジェームス氏はウィリアムの2年後輩。
しかしサークルは同じ地方行政研究会。
かつどちらも伯爵家の長男という事もあり、親しかったらしい。
なお現ダーリントン伯爵のリデル氏はそのサークルの先輩との事。
さて、僕は地図を見て新路線を確認する。
新路線が向かう3カ所とも大きい街では無い。
というか元々シックルード領に大きい街なんて存在しない。
領都のスウォンジーだってせいぜい3万人規模。
最近急激に人口が増えているけれども。
「どれも人を運ぶという意味では期待出来ないですね。狙いはまた農業振興ですか」
「もちろん第一にはそうさ。だから一番列車はスウォンジーやガナーヴィンの自由市場の出店に間に合うようにしてくれないか」
やはりこの点もジェームス氏と同じだ。
おそらく2人とも農家から市場への流れを変えたいのだろう。
今はゴーレム車や船といった輸送手段を持っている大手商家が産地から買い付け、市場へ回している。
結果、儲けの大半はその商家が得ている状態だ。
ゴーレム車は高価だし維持費もかかる。
操縦可能な土属性魔法使いを継続的に雇用する必要もある。
だからゴーレム車での輸送なんて通常の農家では無理なのだ。
この構造を鉄道で変えようというのだろう。
ジェームス氏もそうした考えを持っているというのは少々意外だったけれども。
スティルマン領は商業都市ガナーヴィンが中心の、商業で栄えている領地だから。
「他にラングランドから東側の山岳地帯でも本格的に資源探査を開始しようかと思っている。石灰石鉱山があるのは確認されているけれど、他にも資源が無いか確認したいしね。
あそこはスウォンジーと同じ境界山脈沿いだからさ、金属鉱山が他にもあるかもしれない。最悪でも石灰石とルレセコイアの資源化は出来るだろ。
このあたりもリチャードの守備範囲だよね、鉱山長や森林公社長としてのさ」
金属関係の鉱山はマンブルズ鉄鉱山の、それ以外の鉱山や森林開発は森林公社の担当。
どちらも現在の長は僕だ。
「確かにそうですけれどね。予算措置は大丈夫なんですか。昨年だって例年と比べてかなり出費が増えていますよね」
何せ森林鉄道を含め鉄道を敷設しまくったのだ。それにスウォンジー北側を新設した市場を中心に再開発なんて事もした。その分出費はかさんでいる筈だ。
「まあそうだけれどね。昨年は鉄鉱山の実績が最高だったし、今年もこのままなら例年と比べて悪くはならないだろう。森林公社に至ってはここ十年分の累積利益並みの利益を出している。
それに領内、特に鉄道が通ったスウォンジーからジェスタ、ハーディあたりは急速に成長しているしね、農業もそれ以外の産業も。
領主家内の交際費等も今年はこれから大分減るしさ」
言っている事はわかる。
しかしその結果得られる収入はこれからの話だ。
今、手元にある金ではない。
「それだけでは足りませんよね」
「まあそうだね。実のところはスティルマン領から共同出資案が来た。ラングランドの石灰石鉱山についてね。だからこれを機に、少しばかり攻めに出ようと思ってね」
やはりジェームス氏がらみか。
きっと他の場所の開発も此処で言った以上の思惑があるのだろう。
「わかりました。3路線とも受けます。何でしたら土地収用の計画段階から、こちらの要員を出しますけれど」
「そうしてくれるとありがたいね。どれくらいの設備にするのか、そちらの意見も聞きながら進めたいところだしさ」
そんな訳でシックルード領地内のローカル線3路線の敷設が決定した。
もちろん土地の収用、線路の敷設、駅や施設の設置工事は領主家側の負担となる。
こっちは相談要員を派遣しておけばいい。
主任クラスで工事に詳しい奴がいいだろう。
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