第64話 副商会長の人事
さて、新たに運行したジェスタ~三公社前の路線。
このうちジェスタ~スウォンジー北門~ライル河川港~三公社の間は、どちら方向も朝6の鐘から夜8の鐘までの間、1時間につき1本運行。
このうちシノマ河川港→スウォンジー北門→ライル河川港→三公社は、ジェスタからの直通を含め、朝6の鐘~朝8の鐘までの間、合計7本運行。
その逆方向は午後4半の鐘~夜6半の鐘まで、やはり合計7本運行。
これは三公社への通勤需要を考えてだ。
所要時間はジェスタからスウォンジー北門まで45分程度。
つまり表定速度は
それでもゴーレム車よりは速いからまあいいだろうと判断している。
駅は三公社からジェスタ西門まで、合計11駅。
うち◎がついた6駅が大型客車も停車可能な駅で、残り5駅が低床車両専用の駅だ。
◎ ジェスタ西門
◎ ジェスタ南門
○ ジ・エガン
○ ジムサン
○ クエル
○ カイ
◎ シノマ河川港
◎ スウォンジー北門
○ ザニイ地区
◎ ライル河川港
◎ 三公社前
今は利便性を考え、全ての列車はクモロ600による各駅停車。
基本的には単行+低床コンテナ貨車の2両編成。
通勤時間だけクモロ600を2両に増やす予定。
大型車両はガナーヴィンまで開業時に急行列車として走らせる予定で、それまではお預け。
運賃はシックルード領内は1回乗車につき、正銅貨2枚の均一料金。
定期券も1月単位で販売する。
これは1月あたり
往復するなら半月で元が取れる計算。
なお回数券はまだ考えていない。
要望が出たら考える予定だ。
また三公社に勤務する者は三公社~シノマ間の期間限定無しの定期券を支給する。
その代わりに通勤時のゴーレム車は廃止。
どうせ三公社への通勤以外はガラガラだろう。
移動需要もそれほど無いだろうし。
貨物もせいぜい両河川港からのものが少数だろう。
そう僕は思っている。
さて。
スティルマン領へ進出する前にやっておかなければならない事はまだある。
運輸部門と工房をあわせた新組織の設立だ。
この組織は公社ではなく商会形式の組織となる。
シックルード領以外にも進出するから、領内公社形式には出来ない。
事務系や経理的なもの、業務分掌もほぼかたまっている。
ただし人事の大事な部分だけ、まだ決まっていない。
副商会長だ。
最初は現在の陸運部長であるクロッカーに話を持っていった。
しかし固辞された。
「新商会の副商会長となれば、私よりもう少し重鎮的な人にしたほうがいいでしょう。それに工房業務も管轄下にするなら技術に明るい人の方が好ましいと思われます」
陸運部は森林公社では重要な組織とされていなかった。
そのせいかかつては部長ポストも他の部の副長と同格程度に見られていたようだ。
クロッカーもまだ40代前半。
動きもいいし能力的には悪くないのだが確かに貫禄には乏しい。
かと言って今の陸運部副長のミルコという訳にもいかない。
クロッカー以上に若いし。
年功序列というのは好きではないが、見た目の重さもある程度必要なのだ。
かといって森林公社には他に適材はいない。
午後に工房に行った際、カールにも振ってみたが一笑された。
「タチの悪い冗談としか思えないな」
「そうですね。カールは工房長より上にしたらまずいでしょう」
キットにまでそう言われる始末だ。
「それより適任がいるだろう。ゴーレム技術に詳しくて、一見重鎮っぽく見えるが腰が軽い奴が鉄鉱山に」
「そうですね。工房が出来る以前は鉱山の技術関係を統括していましたし。それ以外の業務もひととおり知っていますし、部下として働きやすい。確かに強面にはなれないでしょうけれど、交渉そのものは上手ですしね。
本人も部下も異動を望まないでしょうけれど」
誰かはすぐにわかった。
というか工房以前に鉄鉱山で技術統括していたという時点で1人だけだ。
「ダルトンか」
「ああ、奴が適任だ。あれの下なら工房も今まで通りで済む」
理屈も能力も人格も問題無い。
カールやキットの言う通りだ。
ただ個人的にここでダルトンに頼むのは申し訳ない。
奴には世話になったし面倒もかけまくった。
鉱山にトロッコを設置したのだって採掘管理部長である奴の理解あっての事。
ジェフリーが鉱山長の時代も何やかんや現場との緩衝材となって、鉱山の施設的人材的崩壊を最小限に食い止めてくれていたし。
そのおかげで髪の毛が……と思うと心が痛む。
それにジェフリーや僕だけではない。
話によるとリーランド大叔父も奴には苦労をかけまくっていたようだ。
鉄鉱山をゴーレム化したのも大叔父とダルトンの二人三脚的なところがあったらしい。
更に前鉱山長、叔父のレオナルドの時代も……
つまりリーランド大叔父以降の鉱山長は奴の世話になっている訳だ。
しかもダルトン、そろそろいい御年齢。
老体に鞭打つように新事業の矢面に立たせるのは非常に申し訳ない。
そろそろ引退してゆっくり余生を過ごして貰ってもいい気さえするのだ。
しかし考えれば考えるほど、ダルトンより適任者が思い浮かばない。
うーむ。
「諦めろ。それに他から見れば抜擢だし栄転だろう」
「そうですね。申し訳ないですがここで最後のご奉公という事で」
最後のご奉公とこっちから言ってもいいものなのだろうか。
そう思うがどうにも仕方ない。
今は鉱山長も僕が兼ねている。
引き抜くのにそれほど苦労はいらない。
採掘管理部長ポストの後釜も思いつく。
仕方ない。
「ちょっと庶務と運輸部に寄って、それから鉄鉱山に行ってくる」
「わかりました。お気をつけて」
関係者と本人に話をつけてこよう。
面倒だし申し訳ないしいまひとつ気が乗らない仕事だが仕方ない。
これも長の仕事だから。
※ 表定速度
測定区間(例えば始発駅~終着駅)の距離を所要時間で割って求めた速度。つまり途中駅への停車時間も含んで計算された列車の平均速度。
表定速度の例(2022.3の時刻表による。小数点第二位を四捨五入)
○ のぞみ64号 224.3km/h 距離1069.1km 所要4時間46分
○ サンダーバード37号 106.3km/h 距離267.6km 所要2時間31分
○ つくばエクスプレス快速 77.7km/h 距離58.3km 所要45分
○ 阪急京都線・特急 66.6km/h 距離47.7km 所要43分
○ 東武伊勢崎線・東京メトロ半蔵門線・東急田園都市線急行
42.7km/h 距離93.3km 所要2時間11分
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