第51話 新たな路線と自走客車

 鉄鉱山での事態収拾作業は一段落した。

 あとは現幹部が何とかしてくれるだろう。

 エドワルド副鉱山長だのダルトン採掘管理部長だのといった辺りが。


 そう言えば半年ぶりに見たダルトンの頭、すっかり禿げ上がってしまっていた。

 嗚呼ダルトン、君が髪を犠牲にしてまで守ってくれた設備や機材は無駄にしない。

 だから新体制で頑張ってくれ。


 そんな訳で僕の鉄鉱山業務は毎週の定期報告だけに縮小。

 あとは森林公社の方に専念している。

 何せ運輸部独立プロジェクトと都市鉄道新設プロジェクトが進行中だ。

 目を離すわけにはいかない。


 午後、工房で都市鉄道新設プロジェクトの進行状況を確認する。


「キット、新線敷設はどれくらいのスケジュールになる?」


「今のスケジュールですと7月頭に敷設完了ですね。付帯設備も同時進行で工事していますから、7月上旬には試験運行を開始できます」


「車両の方はどうだ?」


「新線専用の大型車両先行型完成は新線敷設完了とほぼ同時期ですね」


「今回は大きさが今までの倍以上なので製作方法も変えた。貨物車とは台枠の構造からして違うものになる。台車もより高速度に対応出来るように新型を開発した。今後は貨物車と客車は別の台車や台枠構造、寸法基準で製作する予定だ」


 うーむ、悪くない。

 ますます本格的な鉄道らしくなった。

 大型車両といっても前世日本の一般的な電車と比べれば小型だけれども。


 全長8腕16m全幅1腕50指2.5mの両運転台形。

 前にも思ったが銀座線車両と同じ程度の大きさだ


 ただ銀座線は6両編成。

 単行で走る列車と比較するなら、JR西日本のキハ120形あたりだろう。

 この場合長さはほぼ同じだが幅が30cm、キハ120形より細い。


 つまりはまだ日本のローカル線以下だ。  

 それでも比較できるところまで来た。


「車両の性能はどんな感じだ」


「車体が大きくなった分、大型のゴーレムを積載する予定だ。そして今度の路線は森林鉄道ほどの急カーブも急傾斜も無い。だから時速にして30離60km/hは実用的に出せるだろう」


 日本の基準では遅いと感じるかもしれない。

 しかしこの国では未曾有の高速だ。

 当座はこの速度で問題になる事はないだろう。


 ただ他に問題がない訳でも無い。


「ところで、やはり連結しての運転は無理か」


「ああ。連結する場合は機関車が必要になる。現在最も強力な森林鉄道本線用機関車を使っても大型自走客車は3両までだな。しかもその場合は速度が時速20離40km/hが限界だ」


 理由はやはりゴーレムの出力問題。

 床下設置出来る大きさのゴーレム1頭で動かすのは、この大型車両では1両まで。

 車体限界まで大きなゴーレムを積んだ機関車を使っても、車両が大きく重い分、連結可能車両数は少なくなる。


「現在ある本線用以上に大型の機関車を作っても他に使う機会がなさそうですからね。現状では大型自走客車は単行での運用になります」


「ただ、上手く行けばリノの研究が間に合う。そうすれば出力問題は一気に解決する筈だ」


「基礎理論は出来上がっているので、時間の問題だとは思うのですけれどね」


 リノとは4月に工房に新卒採用した研究者の1人だ。

 元々微生物を専門としていたそうで、既に微生物型ゴーレムの出力向上なんて成果を出している。

 今研究しているのは微生物型複数ゴーレムの同調制御。


 これが出来れば複数のゴーレムを1人の操縦者が制御可能になる訳だ。    

 つまり幾つものゴーレムを積んだ列車を動かす事が出来るという事。

 これで更に日本の電車や気動車に近づく事が出来る。

 長大編成だって思いのままだ。


 うまく行けば動力ゴーレムをもっと小型にして台車に仕込むなんて事も出来るだろう。

 吊りかけ式、いやカルダン駆動だって夢ではない。

 それが出来ればいよいよ本格的な高速列車が作れる。


「リノの研究が完成した場合、今まで作った自走車両も同調制御できるようになるのか?」


「今のところ全く同一タイプのゴーレムでないと同調制御は無理らしい。だから同調制御させるのは同一仕様の車両同士で組み合わせになる。

 新型の自走客車同士はすぐに対応出来るよう、あらかじめ仕様をあわせておく予定だ」


 なるほど。


「つまり今度作る大型自走客車は、いずれ同調制御で複数連結して走らせる事が可能になる訳だな」


「それは間違いない」


 それならば問題はない。


「わかった」


 ごく近い将来には長大編成が可能になる訳だ。

 カルダン駆動はまあ、その先の話としても。


※ 銀座線の車両

  東京メトロ銀座線は日本でも最初期に作られた地下鉄路線であるため、トンネルが狭く、許容される車両の大きさが小さい。具体的には1両の車両長が16 m、1編成6両の長さが96 m、車幅が2.55mとなっている。

  2022年現在で使用されている1000系電車の大きさは全長16m、全幅 2.55m、全高3.465m。


※ JR西日本キハ120形気動車

  JR西日本がローカル線用に作った気動車。第16話の解説で出てきたNDCシリーズの中でも最小の16m級。各JRで使用している中では最小・最軽量級の小型気動車。ワンマン運転対応。

  車両の大きさは全長16.3m、全幅2.7~2.8m、全高4.045m。


※ 吊り掛け式 カルダン駆動方式

  電車や電気機関車等で、モーターから車輪軸に動力を伝達する方式の種類。


  吊り掛け式とは旧型電車や電気機関車等に用いられている方法で、モーターを車輪軸を中心とする円周上で動くように設置する方式。後述するカルダン式にくらべ大型のモーターを使用出来るかわりにバネ下重量が大きくなる、騒音や振動が大きくなる等の欠点がある。


  カルダン駆動方式はモーターを懸架装置上に配置し、ユニバーサル・ジョイントを介して車軸側の歯車装置へ動力を伝達、駆動する方式。

  日本の最近の電車はほぼ全てカルダン駆動方式となっている。


  なお気動車は(電気式気動車を除いて)動力源となるエンジンが大きい為、台車に載せる事が出来ない。だからエンジン→変速機→プロペラシャフト→変速機→車輪軸という形で動力を伝達している。

  この物語世界でのゴーレムを動力とする自走車両もほぼ気動車と同じ方式で動力を伝達している。

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