第11章 妹との手紙

第41話 妹への手紙

 ウィリアムはあてにならない。

 あの後、御客様ジェームス氏が帰った後、実家に押しかけたのだ。

 しかしあの野郎ウィリアム

『リチャードにとってもいい話じゃないか。向こうの意向でもあるしさ』

という事で頑として断る方向へ話を持って行かない。


 こうなったら搦め手だ。

 ローラの方にこの状況を知らせて誤解をといてもらうしかない。


 かとは言ってもいきなりローラに手紙を出すというのも問題だ。

 なにせローラがいるのは国立高等教育学校の女子寮。

 身内でない男性名で手紙を出すのは憚られる。

 本当に婚約者なら別だろうけれども。


 そんな訳で頼りにするのは我が妹、パトリシア。

 既に学校に戻っている奴の元へ、今回の顛末をしたためたお手紙を送った。


 しかし電子メールなんて物はないし、この国の郵便制度は日本の郵便局や宅配便業者程、有能では無い。 

 だから王都までの手紙は片道5日間、パトリシアがすぐに行動の上返答してくれても往復10日間はかかる。


 その間にも世間や公社は動いていく訳だ。


 森林公社というか森林鉄道、着々と路線を延ばしている。

 フィドル川支線はレールを本線と同じ10重60kgレールへと更新した。

 支線がどんどん奥へと伸びていき、それなりに列車も走るようになったので。


 支線が延びて貨物も多くなるなら、当然車両数も増やさなければならない。

 鉄鉱山から引き取った資材で石灰石鉱山もゴーレム化し、出荷量が増えている。


 フィドル川出合の操車場も少しばかり規模を広げた。

 定期の貨物列車も1日1本から2本に増やした。

 これ以上増えるなら、フィドル川出合と資材置場の間に信号場を設けて、行き違いダイヤを組む必要がある。

 既にキットがその準備を始めている。


 そしてカールは新たな鉄道を規格ごと考えはじめた。

 勿論ガナーヴィンへの都市間鉄道を念頭に置いてだ。


「次の車両規格、長さは現在の倍ちょっと、8腕16mで行こう。幅は1腕と4半腕2.5m程度で。レールは出来れば16重96kgレールを使いたい。重量級の貨物や大型客車が高速で走る事を考えれば頑丈な方がいい」


 車両長が16mでレールがメートルあたりにすると48kgレールか。

 かなり日本の鉄道に近づいたなと思う。

 特にレールはもう21世紀初頭の在来線、それも幹線並みだ。


 これだけの事を進めているが、予算的には余裕がある。

 何せ輸送の効率化によって売上高は伸びる一方。

 石灰石鉱山なんて前年同月比1,000%の実績だ。

 つまり10倍。


 本来ならこの儲けは必要経費を除いた後、長である僕の取り分となる。

 しかし僕には金を使うような趣味も家族も家計の事情もない。

 かつてはゴーレム車改造が趣味だったが、今は鉄道を進める事そのものが趣味だ。


 だからこれらの儲けはいざという時の為の蓄えを残して、工房の研究と公社の環境改善に再投入している。

 結果鉄道の総延長は伸び、公社は儲かり、新たな鉄道車両が出来上がる。

 最高のサイクルだ。


 本日も新型車両が出来上がるというので立ち会わせてもらった。

 貫通型の両運転台を持つ自走客車だ。


 前面デザインは僕がラフを描いた結果、何となくキハ10系に似た感じになった。

 横から見ると長さが足りないし扉が中央1つだけだしで全然違うのだけれども。


「これは見かけだけでなく、ゴーレムも強化してある。以前の自走客車の1割増し程度だな。だから3両編成にしても使うゴーレムは1両分で済む」


「しかし3両編成か。いきなり増えたな」


「運輸部からの要望ですよ。各地点の作業員が増えた関係上、最低でも2両編成が必要なんだそうです。それでどうせなら乗換無しでフィドル川支線、石灰石鉱山本線、カラマス川支線全部に直行できるようにって事で」


 こんな感じで鉄道は、いや森林公社は絶好調だ。 

 しかし気になる事がない訳でも無い。

 鉄インゴット価格の上昇と出荷量の減少だ。


 そろそろ他領からの購入を本気で考えた方がいいだろうか。

 製鉄所が鉱石という形で他領から購入するだろうから、その後の製品を買えば何とかなるだろうか。

 そう検討を始めなければならないと判断する程に。


 幸い木材事業や石灰石事業が好調なおかげで、河運船の行き来も盛んになっている。

 だから別に船を仕立てなくともそこそこの運賃で持って来られるだろう。

 鉱石も、インゴットも。


 いずれにせよこの件も近々ウィリアムと相談する必要がある。

 ローラの件はあてにならなくとも、こっちについてはそれなりの回答をしてくれるだろう。


 そんな事を思いながら朝は幹部会議に出て、そこそこ大量の書類を決裁し、午後は各部署を回るという名目で実際は工房で3分の2の時間を使うという日々。


「そうか。この同調をうまく発展させれば複数のゴーレムを同時に操れる訳か」


「ええ。使用前に同時に光刺激を与え、ゴーレム内の体内時計とも言える部分を同調させる事によって、ほぼ同じリズムで動くゴーレムを……」


 これは期待の新人、生物属性魔法を持つリノ君。

 彼の研究が上手く行けば、ついに動力分散が可能になる。

 機関車も複数のエンジンを備える事が出来るし、気動車や電車のように各車両に動力源を持つなんて事も出来る訳だ。


 そんなこんなで忙しくしている折。

 往復15日ほどかけ、ついにパトリシアから返答の手紙が届いたのだった。

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