第14話 見学会開始

「大型馬車が屋敷を出ました」


 マルキス君からそう報告があった。


 僕のゴーレム車牽引用ゴーレムはマルキス君の遠隔操縦で領主家じっかの中、門付近に待機させている。

 つまりマルキス君はゴーレムを通して実家の門を見張っている状態だ。


「わかった。それじゃマルキスは採掘管理部へ連絡した後、ゴーレムをこっちに戻してくれ」


「わかりました」


 マルキス君が部屋を出る。

 予定は幹部連中に連絡済。

 だからマルキス君から連絡を受ければ動き出す筈だ。


 そして僕とカールは事務所2階、御嬢様方の待機室として用意した部屋で彼女達が来るのを待つ。

 実家からだとゴーレム車で5半時間12分程度だ。

 もう少し近づいて、魔法視界の中にゴーレム車を捉えたら出迎えに出ればいい。


「どうにもこういうのは落ち着かない。物を作っている方が楽だ」


 カールは本日、僕に同行して説明やゴーレム操縦等を行う役だ。

 見学用ゴーレムや森林鉄道試作車を動かすのが主な役目。

 他に僕が答えられない技術的質問等に回答するなんて役目もある。

 貴族令嬢に相対するのだから立場的にも幹部であるカールが同行するのは正しい。

 だいたいだ。


「一応カールは学校の元講師だろ。貴族の生徒相手だって慣れている筈だ」


「そうだけれどな。人間相手より物作っている方が楽だし楽しい」


 それはわかっている。

 しかし立場上、奴を外すという選択肢は無い。


 そのカールがふっと目を細めた。


「範囲に入った。あと10半時間6分程度、いやもう少し早いか」


 魔法使いとしての能力は僕よりカールの方が上。

 その分遠方を走るゴーレム車等に気づくのも早い。


「なら行くか」


「ああ」


 僕らは立ち上がり、出迎えるために部屋を出る。


「人数はわかるか」


「生物相手は苦手だ。しかし……操縦者を含めて7人、意外だな。御嬢様方だけだ、つまり」


 確かに僕も意外に思う。

 普通は案内役兼御目付役の使用人を1人つけるものだ。

 御者や操縦者ではなく、もう少し格上の上級使用人の誰かを。


 近いし魔物が出るおそれも無いからその辺を省いたのだろうか。

 しかし父や兄がそういう判断をするとは思えない。

 2人とも割とその辺は保守的な方だ。


 ならそうなったのは一行の誰かの意思だろう。

 パトリシアか、それとも他の5人の誰かか。

 そしてそれはどういう意味を持っているのか。

 

 階段を下りて、そして玄関から外へ。

 僕の魔法的視界にもゴーレム車が入った。

 シックルード家じっか家紋入りの馬型ゴーレム2頭牽引による大型車だ。


 操縦しているのは顔見知りのシックルード家じっかの使用人。

 御目付役という立場の者ではない。

 カールの言う通りのようだ。


 しかし考えてもわからない事を考えるのは無駄だろう。

 とりあえず面倒な御目付役がいない事を喜ぶだけでいい。

 あとは気にせず予定通りやるだけ。


 ゴーレム車が事務所の玄関前で静止する。

 操縦者が扉を開け、そして中から女子が降りてきた。

 さて、それではご挨拶するとしようか。


「御嬢様方、本日は当マンブルズ鉄鉱山へようこそいらっしゃいました。私はリチャード、パトリシアの兄でここの鉱山長をしております。こちらはカール、元国立高等工科学校の講師だったのを引き抜いて、現在はここの技師長をしております」


「リチャード御兄様、今日は堅苦しい挨拶はいりませんわ。御父様もウィリアム御兄様もおりませんから。私達も公的な見学でなく、単にリチャード御兄様が変わった物を作ったというので見に来ただけですから」


 いやパトリシア、一応他家の御令嬢方の前だから形は必要だ。

 学校内は身分階級関係なく平等という建前、だから学生時代はその辺気にしないけれども。


「とりあえずは中へどうぞ。今日の見学コースの説明をさせていただきますから」


「山を上るものとかは乗れないのでしょうか? 結構楽しみにしていたのですけれど」


 おっとパトリシア、いきなりここで質問か。

 本当は玄関先であまり会話をするのはマナー違反。

 でもまあ聞かれたからには仕方ない。


「大丈夫です。全部体験するようにコースを組んであります。ケーブルカーもトロッコも、開発中のものも全部です」


「そのケーブルカーやトロッコというのが、新しい運搬方式の名前なのでしょうか」


 今、諮問したのはパトリシア以外の子だ。

 この子がスティルマン伯爵家のローラ嬢だろうか。


「ええ。これらを総称して鉄道と呼んでいます。どれも鉄で出来た道を走る乗り物ですから。その辺についても部屋で説明致します。説明してから体験した方がわかりやすいでしょう」


 うーむ、玄関先でここまで話すとは思わなかった。

 しかしまあ、今回は御目付役がいないので気にしなくていいだろう。


「それでは中へどうぞ」


 やっと玄関から移動を開始。

 2階の角、今日の為に整備した会議室へと案内する。


 この部屋に来たらまずはこの説明から。

 

「この窓の向こう側に選鉱場があります。坑内から掘り起こした鉱石等を新しい方式でゴーレムが運んでおります」


「見ても宜しいでしょうか?」


「勿論です」


 御嬢様方6名が窓にはりつく。


 この部屋の窓からは選鉱場横の積み卸し場がよく見える。

 当然ここに積載済のホッパ車を牽いたゴーレムもやってくる訳だ。 


 いいタイミングで第1鉱区からのゴーレムがやってきた。

 鉱石満載のホッパ車30両と制御台車を操車場に止め、そして別の線路に止まっていた列車の制御台車に乗ってまた坑口へと引き返していく。


「あのゴーレム1頭であんなに引っ張ってくるのでしょうか。相当に力が強くなるような改造をされているのでしょうか」


 これはさっき僕に質問した子だ。


「あのゴーレムは確かに改造してあります。ですが力そのものは市販の鉱山用ゴーレムと大差ありません。この鉄道という仕組みが重い物を移動させるのに適しているのです。その結果、ゴーレム1頭だけでもあれだけ運べます」

    

「もっと近くで見る事は出来ませんでしょうか?」


 これはパトリシア。

 ちょうどいい質問だ。

 これで自然に次の話に移れる。


「ええ。これからあのトロッコがどう稼働しているか、実際に見ていただきます。

 ご存じかもしれませんがマンブルズ鉱山は内部の採掘をゴーレムだけで行っています。他の鉱山のように人間が入れるようには出来ていません。


 ですので見学にはゴーレムを使用します。今日はこのゴーレムの視覚と聴覚を共有して、見て貰おうと思っています。

 ゴーレムの感覚共有魔法は学校でもうやっていますね」


 全員が頷く。

 勿論魔法を習得済である事はわかっている。

 基本魔法で中等学校1年の時には習う筈だ。

 この魔法は上流階級でも遠方の監視等で割と使うから。


「それではこのゴーレムに感覚共有魔法をかけてください。操縦はカールが致します。魔法をかけたらこちらの席へ。今、お飲み物を用意しますから」


 用意していた人型小型ゴーレムを出してそれぞれ魔法をかけて貰う。

 その間に我が家の見習いメイド、ヒフミがワゴンを押して奥の部屋から出てきた。

 ドリンクとお茶菓子のサーブの為に連れてきたのだ。

 なおお茶菓子は僕の家特製、小●軒のレーズンウィ●チもどき。


「リチャード兄、このお菓子初めて見るけれど何処の?」


 パトリシア、口調が戻ったな。

 まあ仕方ない。

 実家ではだいたいこんな感じだったから。


 なおこの菓子は僕の過去の記憶が戻ってから作り上げたもの。

 だからパトリシアが知らないのは当然だ。


「うちのメイド特製です。まだ試作段階だけれど悪くないと思っています。とりあえずゴーレムに魔法をかけてから、ゆっくりどうぞ」


「わかりました」


 よし、これでやっとトロッコの見学に入れる。

 本来はカールに説明させるつもりだったのだが、結局僕が話しっぱなしになってしまった。

 まあ仕方ない。

 これも鉱山長の仕事みたいなものだから。


※ 小●軒のレーズンウィ●チ

  これは鉄道に関係なく単に書き手の好物。なお同じ●川軒という名前でも実は4種類(4組織?)あり、見た目も味も少しずつ違う。


 本当は菓子も鉄らしく、ぬれ煎餅(銚子電鉄風)とか、まずい棒(やはり銚子電鉄風)にしたかった。でも今回の話にあわなかった為、断念。なおバナナカステラ(これも銚子電鉄風)等、他にも色々あるけれど、この辺となると鉄の間ですら知名度がいまひとつの為採用しなかった。

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