異世界鉄道 ~元鉄オタが鉱山持ち領主の三男に生まれた場合~

於田縫紀

プロローグ

プロローグ1 最初はトロッコ路線から

 軌間は40指40cm

 本当は標準軌1435mm狭軌1067mmにしたかった。

 広さ的に無理ならせめて地球で実用最小軌間と言われた15インチゲージ381mmに。


 しかしこの世界ではこんな中途半端な値にする根拠がない。

 仕方なく妥当と思われる40指40cmにした訳だ。


 なお使用するレールは1腕2m2重12kg

 ここにはめでたく地球でもお馴染み6kgレールを使用出来た。

 なおレールの形状は一般的な平底レール。

 双頭レールという選択肢にも魅力を感じたのだがここは無難な選択で。


 総延長はわずか半離1km

 単線で途中に発条転てつ器スプリングポイントによる行き違い場所が1箇所あるだけ。

 駅はない。

 こちら側に車庫を兼ねた操車場、向こう側の終端に積載用のスペースがあるだけ。


 これがシックルード伯爵家マンブルズ鉄鉱山選鉱場から第12鉱区まで牽かれた鉱山用のトロッコ路線。

 おそらくこの世界における最初の鉄道だ。

 

「それでは使用を開始します」


 工作技師長のカールがそう告げるとともにゴーレムが乗った先頭車両がナベトロ10両を従えて走り始める。

 選鉱場前の積み降ろし場から第12鉱区まではほぼ一定の下り傾斜。

 その間はゴーレムがブレーキをかけつつ速度を調整して下っていく仕組みだ。


 なお帰りはゴーレムが車両を牽引してくる。

 人力のトロッコをゴーレムに代えたような状態だ。

 この辺も地球の鉱山鉄道で見られたのと似た形。


 稼働開始までに何度も試運転を行った。

 ホッパ車も改良を繰り返した自信作。

 ゴーレム用制御台車も何度もテスト済み。

 だから事故の心配はない筈だ。


 経費についても検討を重ねた。

 鉄輪式の鉄道は乗り物の中で最高効率。

 21世紀初頭の地球であってもだ。

 だからこっちでも問題はない、そう思ってはいるけれども。


 本当はずっと見ていたい。

 出来れば一番列車も自分で操縦したかった。


 試運転の際には何度となく自分で操縦している。

 先頭車両に乗ってブレーキを操作しながら下っていくのも。

 ゴーレムに牽引させて上ってくるのも。


 しかし営業運転ともなると話は別だ。

 鉱山長の僕が自ら鉄道趣味的に操縦する訳にはいかない。


 なのだが本来工作技師長で技術工房責任者のカールが操縦するのもおかしい。

 本来、操縦はゴーレム操縦者を抱える採掘部の仕事。

 部門も役職も奴とは関係ない筈だ。


 奴め絶対自分がやりたいから、無理矢理操縦役に志願したな。

 採掘部はカール工作技師長と技術工房に借りがある。

 採掘や運搬に使用するゴーレムの整備や改良、操縦者がしくじった際の修理、他にも色々と。


 奴はきっとその辺の人間関係を利用して今回の立場をもぎ取ったに違いない。

 カールは僕よりずっと年上なのにそう言った子供じみた面がある。

 その辺で助かる事も結構多かったりするのだけれど。


 今回はまあ大目に見よう。

 実際に各部の製作を監修したのはカール。

 年こそ離れているが個人的にも兄貴分としてお世話になっているし。


 それに夢はまだはじまったばかり。

 いずれはもっと広い軌間で線路を地上に敷設し、機関車も作って客車も貨車も走らせる。

 人が多くなったらゴーレム技術を使った自走客車を作ってもいい。


 勿論客車も機関車も、電車に相当する自走客車もデザインは僕の手で。

 経路も信号等の安全設備も、駅もヤードも。

 そう、これが全てのはじまりで、ここから作り上げていくのだ。

 鉄道のなかった世界に、僕の僕による僕のための鉄道を。

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