喋る靴

バブみ道日丿宮組

お題:馬鹿な靴 制限時間:15分

喋る靴

 なぁお前さんよ。そんな顔をするのではないよ。

 わたしは元々生命ではなかった。

 お前さんの術によって喋れるようになったしがない靴の一足よ。

「それでも生命をあげたの。あたしには友だちがいなかったから……」

 そうかい。

 あのときはそうだったかもしれない。

 だが後ろをみてくれ。

 今じゃ魔法使いの友だちばかりじゃないか。

 それにわたしが消えても新しい靴を履けばいい。

 女の子なんだから、オシャレをする時期が早まったってことだよ。

「でも、でもでもでも……」

 運動靴、ブーツ、世の中には色んなのがあるって見せてくれたじゃないか。ジャケットもやかんもフォークもみんなみたさ。

 自分たち以外のオシャレ具合をね。

 わたしたちは作られた以上、もう変わることができない。壊れるか、今のように重量オーバーで残されるくらいしかない。

「……」

 暗い顔をするな。お前さんから離れればわたしはただのしゃべらない靴。普通の靴に戻るだけ。お前さんの隣にいる可愛げなおせっかいさんを大切にな。

「わかってるわ。へんな靴だったけど、任せておきなさい」

 うん、素直な娘だ。わたしがちょっかいを出して飛んでいったのが良かったようだな。

「あの時の借りだけは返したい気分ね……?」

 ふふ、もうじき声も聞こえなくなる。重量オーバーのトラップで消えかかったのはわたしだけだ。他の衣服の仲間は消えない。まぁ君の優秀な使い魔は元々消えることはなかろうがね。

「はぁ素直じゃないんだからーー」

 これなにをするんじゃ!? 消える時間をさらに削るとは本当にこやつは借りを返しよって……。

「違うわよ。これを魔法ではい」

「リボン?」

 なるほどな、再構築魔法か。優等生、やるじゃないか。

「ふん、優等生ならあんたくらい元通りにできるわよ」

 だが、ありがとう。

 二人とも、そして使い魔と仲間たちよ。

 もうここから離れるんだ。

 最後くらいは、馬鹿なことをして過ごした靴として生涯を噛み締めながら消えていきたいんじゃ。

「……わかった」

「いいの?」

「ーーはここにいるから」

 お前さんよ。似合ってるぞ、その髪のリボン。

「忘れないから、絶対忘れない」

 一歩ずつ、今日のミッション地を進む二人と仲間たちが遠ざかってくと、わたしの意識も段々と薄れてく。

 崩れ落ちる布、紐。

 形がなんであったのかすらわからなくなってきた。

 だけど、なぜかな……とてもいい気分だった。

 長くて短いような幸せな時間を見て感じてこれたーーそう気がした。


 重量オーバーの魔法が完了した時、焦げ落ちた何かだけがその場に残されてた

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喋る靴 バブみ道日丿宮組 @hinomiyariri

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