レジスタンス
バブみ道日丿宮組
お題:宗教上の理由でユートピア 制限時間:15分
レジスタンス
宮殿から連れ出した少女は、今日も目を輝かせながら電車の外を見ていた。
「何がそんなに珍しいんだ? 宮殿にも本くらいはあっただろう?」
奴隷の待遇だからといって教育しないというわけでもないことだしな。少し考え始めた俺の思考をつつくように少女は抱きついてくる。
「だって、海とか山だよ!? 言ってはいけないってシスターは言ってたし、仲間も山に行って帰ってこなかったし、海もそう! ぼろぼろになって帰ってきたんだよ」
いったい何を海と、山としてあの宮殿は教育してたんだ。
「それは本当の海でも、山じゃねーよ。きっとお前を怖がらせないようにするためのいいわけだ」
それとな、
「アイスはもっと上品に食えよ。もったいないだろ」
「んっーーー」
ハンカチで拭いてあげないといけないぐらい少女の口は生クリームのバニラでベトベトだった。
「ありがとう!」
「あいよ、ほらそろそろもっと大きな海が見える。俺が住んでる街だ」
生憎飛行機に密輸するときに見せられなかった海だ。
「これが海? 海なの?」
「いや、これが街だよ。お前がいたのは異端者たちが宗教デモを起こしてた地域。つまりはユートピアじゃなかったってことさ」
奴隷って時点で平和じゃない。
「じゃぁこれがお兄ちゃんがいうユートピアなの?」
「うーん、こっちもこっちでユートピアはないが、迫害を受けるようなことはないから安心しろ。そういう意味じゃアイス食べ放題のユートピアとでも思ってくれ」
「ほんと!」
少女は窓に釘付けになった。
連れ出せて良かったといえるのだろうか。
たった一人。
拘束も、傷もなかった奴隷を逃がすという行為を部外者が勝手に……。
「お兄ちゃんもこの海のどこかに住んでるんだよね!?」
「あぁ、これから一緒に住むんだ。服とかも買わなきゃな」
生活用品はあいつらに任せればいいか。
幼女趣味があったんですかって言いそうだから、殴る準備ぐらいはしてもいいか。
「……」
少女を助け出したのは、他の奴隷たちの願いでもあった。何もされてない、これからの悲劇に巻き込まれる前にという些細な願い。
たまたま彼女たちが休める唯一の自由時間に出くわせたのが運の尽きだったのか、運のよさだったのか。少女はそこから俺に託されて、逃げた。
あとは電車の電光掲示板で流れる通り。
『ーーは国からの要請で軍が派遣され、テロリストは殲滅されてーー』
その中におそらく奴隷たちもいるに違いない。
助けても助からない……そんなどうしようもない理由で、潰してくのがこの国のやり方だ。
「お兄ちゃん、怖い顔」
「あぁ、ちょっと考えごとだ。次の駅だ。楽しみにしとけよ」
頭を撫でると、年相応の笑顔が返ってくる。
少しでも国をよく、救いがあれば助けるーーそれが俺の所属するレジスタンスの方針だ。ま、俺は自由にやってるだけなんだがね。
レジスタンス バブみ道日丿宮組 @hinomiyariri
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