お約束のボケですわね!
「それでは新井さま! 何かありましたら、お気軽にいらして下さい!」
運転席に乗り込み、助手席にラーメン眼鏡も乗っけましたら、いよいよ野球選手はお帰り下さいという雰囲気になった。
その頃になると、営業所の建物の前では俺の車の四方八方を取り囲むようにして、従業員達がお行儀よく列を作っていた。
他のお客さんに応対している人間以外は全員という空気感。
俺に対応した白シャツマンに加えて、他の白シャツマン達も。受付のきれいなお姉さんもそうだし、奥の部屋から出てきた事務員さん達。
さらには、隣接されている整備工場のブルーツナギのお兄さん達もみんな大集合して、俺とみのりんをお見送りしようとしている。その数、20人から25人。
保険のお金以外、何も支払っていないので、せめてもの気持ちとして、ウインカーを出すフリをして、前後のワイパーを思いっきり動かしてやった。
まだ車に慣れていなくて、間違ってワイパー動かしちゃうパターンのやつ。
それも、2度。1度止めて、2秒置いてからもう1度のやつ。
それをやったら、横に座るみのりんは顔真っ赤。
俺はたまらずにんまり。
「新井くん、もしかして、わざとやったの?」
「この状況でそれをやっちゃうこの勇気が4割打者よ」
「早く担当さんに説明して! 恥ずかしいから!」
「へいへい」
ウイーンとウインドウを下げまして、俺は担当してくれた白シャツさんに弁明する。
「すみません。今のは通過儀礼と言いますか、ちょっとした小ボケでして」
「ええ! 新井さんならやってくるんじゃないかと思っていましたよ!」
白シャツさんは少々食い気味でそう答えた。周りの人達もみんなニヤニヤ。まるで俺がこのボケをやるかやらないかでジュースを1本賭けているくらいのそんな勢い。
「それじゃあ、本当にありがとうございました!」
「はい! こちらの営業所には充電スタンドも御座いますので、いつでもいらして下さいね! それでは誘導させて頂きます」
今度こそ、野球選手はさっさと帰って練習してろ!という雰囲気になってしまった。
左折する道路を2人がかりで誘導してもらいながら、俺は、あとは勇気だけだ!と、叫びつつ、アクセルを踏み込み国道に出た。
軽やかかつ力強い加速。スムーズなハンドリングと乗り心地。そしていかにもな新車の匂い。
また涙が出そうになる。
「すごい! 真ん中のパネルに、速度とか残りバッテリーとか全部出てる! 日付と時間と気温と湿度も! あと、お天気も!ハイテク!」
「ほんとだ! スゲーな!」
「でも、ちっともラーメン情報が出ないよ。壊れてる?」
「下らないこと言ってないで、カーナビの方はよろしくね」
「分かった。宇都宮動物園までの道を調べてみるね」
速度表示などが出ている横の大きなパネル。テレビ、ミュージック、などの項目が、ナビゲーションボタンをポチっと押したみのりんと位置情報を同期化。
「みのりんの眼鏡のレンズに、宇都宮動物園までのルートと犯人の潜伏先特定することに成功したのだった」
「新井くん、何言ってるの? 運転に集中して」
「サー、イエッサー!」
この日は慣らし運転がてらの片道25分くらいのドライブ。
動物園で白っぽいライオンを見たり、アムールトラを見たり、アミメキリンやカバ、アジアゾウ。
ワラビーなんかもいましたよ。長い草っぱをくわえたりして、俺みたいにキザなやつでしたよ。
まあ、1時間半くらい見て回り、レストランに行くと、チャーシュー麺があったので、檻の中の方々よりも猛獣化してしまった、ニホンミノリンをなんとか落ち着かせた。
しっぽが弱点ですからね。
そんな感じで注文したチャーシュー麺もなかなか本格的な味で満足なボリューム。
パンダやトラの白いイラストペイントが入った海苔が2枚入っていたりなんかして。
そんな感じで食事をして、ソフトクリームを食べて、最後になつっこいラマとふれ合って夕方前には市内に帰ってきました。
その後は、ちょっと高級なスーパーへ買い出し行き、帰宅して、また北野君とゲーム部の活動をして晩ごはんを食べてぐっすり寝ました。
暦は6月になり、競馬の世界では日本ダービーが終わり、新馬戦が始まる時期ですから、区切りの1つと言える初夏の1日。
今日は土曜日。埼玉ブルーライトレオンズとのデーゲーム。
前に聞いていた通りに、今日は、スポーツトレーナーの学校に通うポニテちゃん達、生徒さんご一行が実地研修にやってくる日である。
クラブハウスの張り紙にもそう書かれていて、選手スタッフの皆さんは温かく迎えて実りある研修になるようご協力宜しくお願いしますとそんな雰囲気。
もしかしたら将来、立派なトレーナーとしてビクトリーズの一員になったりするかもしれないからね。
貼り紙を一通り確認した俺は、クラブハウスの食堂に入る。
「新井くん、おはよう。最近調子いいわね」
「いやー、おばちゃんの作るご飯が美味しくてー」
「またまたそんなこと言っちゃって。今日は何にする?」
「んーと、チャーハンと卵スープにしようかな」
「はいよ! ちょっと待っててね!」
おばちゃんは俺からの注文を受けると、中華鍋を火にかけ、油をたらしてそれを馴染ませた。
「おーい、新井くん! 久しぶりやな!」
「おー、葛西さん! 久しぶりっす! ビクトリーズスタジアムに来るなんて珍しいですね!」
「おお! 今日は専門学校の生徒さんが来るからな。わいはその案内役やねん」
「なるほど」
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