愛された男
3塁側の出入り口を出た先では、真っ白なでっかい電球の明かりが点けられていて、俺達の荷物を運んでくれる荷台を開けたトラックとドライバーのおじさんが既にスタンバイしていた。
チームマネージャーがコンテナをドライバーに引き渡し、書類にサインして、選手達の野球道具はトラックに積み込まれ、丈夫なバンドでガッチリと固定されて、トラックは勢いよく走り出していく。
チームの人間はその横に止まっていたバスに乗り込み滞在先のホテルへ向かう。
いつものポジションに座ると、隣の柴ちゃんが………今日は外野手連中で露摩野君の初ヒットのお祝いをしましょう言い始めた。
露摩野君に何が食べたいかと訊ねると、彼はいやー、あのー、自分は………その……などと俺達に気を使って言い淀んでいる様子で、それを見た柴ちゃんや桃ちゃんが手を叩きながらゲラゲラと笑う。
お前ら、明日も試合なんだから、羽目を外し過ぎるなよと、コーチ陣に釘を刺されたので、ホテル近くに焼き鳥居酒屋があったのでそこでご飯会をすることに。
俺、柴、桃、杉井君、川田ちゃん、そしてロマーノの6人で街に繰り出し、名古屋コーチンを使った贅沢な料理に舌鼓を打ちながら、ビールやハイボールを流し込んだ。
次の日、外野手会から戻り、しっかり睡眠を取って、午前9時過ぎに起床して食事を済ませて、ホテルを出発。
空港から飛行機に乗り込んで福岡入りし、博多ドームに到着したら軽いミーティングをした後に練習開始。
ウォーミングアップをして、ストレッチをして、キャッチボールをしながら、外野陣は外野フェンス際に集まる。
博多ドームには、ホームランテラスというものが出来ましたから、本来の5メートルある高い高いフェンスの前に競り出した新しい外野フェンス。その間にも特別な観客席があって、そこはホームランゾーン。
今までフェンスに当たるような打球がホームランになるくらいに外野の後ろは狭くなっていますし、頑張れば手前のフェンスは登れたりしますから、打球の跳ね返り方など踏まえまして、岩田外野守備走塁コーチからの教えが入った。
うちらのバッティング練習とシートノックが終了すると、いよいよ試合開始。
今日は右ピッチャーが先発ということで、1番センター柴ちゃん、8番セカンドに守谷ちゃんが入るなど、左バッターが多めの布陣。
初回先頭、その柴ちゃん。
3球目のストレートを叩きつけた打球が高いバウンドで2塁ベース付近へ。回り込んだショートが捕球してその流れのまま1塁へ送球した。
「セーフ!!」
俊足柴すけが高速で1塁ベースを駆け抜けて内野安打となった。
2番の僕ちん。
ベンチからのサインはノンノンであり、ランナーの柴ちゃんが走るかどうかというところだったが、初球がアウトコースのベルトの高さのストレート。
俺にしてみればもはやど真ん中。
カキッ!
ボールのやや上のところをしっかり芯の近くで叩いた。
ゲッツーシフトで2塁ベース寄りのセカンド。1塁ベースに着くファースト。その広く空いた1、2塁間を俺が放った鋭い打球が抜けていく。
野球をやっていて最高の瞬間ですわ。
流し打ちした打球がライト前に抜けていき、それを見ながら1塁に走り出すこの景色。
福岡遠征初戦の第1打席目にヒット。また打率がアップ。交流戦の打率もちょうど5割には乗った。
「2番の新井は初球でした。ノーアウト、ランナー1、2塁となりまして、打席にはこの男が入ります」
「3番、サード、阿久津」
そうコールされた瞬間………。
「「ドワアアアァァッッー!!」」
物凄い歓声と物凄い拍手がグラウンドを一瞬にして包み込んだ。
そうか。
福岡ハードバンクスは阿久津さんの古巣。
半ば戦力外という形で去った阿久津さんがビクトリーズの一員としてやってきた初めての福岡での試合。
今までにハードバンクスとの試合はあったが、去年の交流戦もオープン戦もビクトリーズスタジアムでの試合だったからね。
「「ワアアアァァッッー!!」」
それにしてもすごい阿久津さん人気だ。
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