野球選手ですって言うの恥ずかしいねん。

俺はショルダーバッグからお財布を取り出し、お金をドローしたのだが、よりによって1000円札が1枚しかなかった。


非常に申し訳ない気持ちになりながら、その占い師さんに1万円札を手渡した。



「しばしお待ちを」



占い師さんの格好は、頭から濃い紫色の頭巾のようなものを被っており、口元も光が少し透けるくらい薄い布で覆っていて、同じ色の丈の長いローブのようなお召し物を羽織っている。


足元は、かかとが少し高い革靴を履いているようで、出で立ちはまさに魔女。



しかし、占い師と聞いたら、どうしてか人生経験豊富そうふくよかなマダムを想像したのだが、この女性は結構若い。俺と同じくらいか、もしかしたらちょっと年下かもと。


目元と声色からの判断だがそんな印象だ。



だから、学園祭で張り切った大学生が頑張って魔女のコスプレをしているというそういう想像に至ってしまうわけだ。



「お待たせしました」



暗幕の奥から再び現れた占い師さんは、俺の目の前で丁寧に数えた10枚の1000円札を俺に手渡した。



「お手数お掛けしました」



「いえ」




俺はその両替してもらった1000円札を改めて祭壇に捧げて、出てきた札をその占い師さんに渡した。



「それではこちらへどうぞ」



ゆっくりと歩く占い師さんに着いていった先は暗幕の中。出入り口を覆い隠すように斜めに垂れ下がった暗幕を少し手で退けながら部屋に入った。





「どうぞお掛け下さい。コーヒー、飲まれますか?」



コーヒーかあ。コーラが飲みたいです。



「ええ、いただきます」






占い師さんはさらに奥にある暗幕の向こう側に入った。


部屋の中は天井の蛍光灯は消されていて、部屋の隅にある暖色の間接照明と電気蝋燭の灯りだけでちょっと薄暗い感じ。


どこかでアロマキャンドル的なものをやっているのか、落ち着きのあるちょっと香ばしい香りがして、サーキュレーターの風を少しだけ感じる。



部屋の真ん中には、四角いテーブルが置かれていて、これにも濃い紫色の布が足が見えなくなるまで掛けられている。



俺はその手前側に置かれている椅子に腰掛けた。



しばらくして占い師さんがまた現れ、コーヒーが注がれたカップとお菓子の包みを俺の目の前に差し出した。



そしてそのお菓子は俺にとってはよく見慣れたもの。監督室でよく盗み食いしていたそれ。



ビクトリアガレット。



親会社の看板商品であった。




「それで、今日はどういったご用件でしょうか」



「実はわたくし、北関東ビクトリーズというチームの所属しているスタッフでして、なかなかチームの調子が悪くて開幕から勝てていなくてですね。なんとか御教授を頂ければと思ってやってきた次第でして………」




俺は大嘘をついた。









そんな用件を伝え、俺はいまだにちょっと苦手なコーヒーをひとすすり。


占い師の女性はなるほどと、少し頷き、俺の目を見た。



「北関東ビクトリーズ。この近くにあるスタジアムで試合をするプロ野球チームですね。……私はそれほど野球に詳しくありませんので、専門的なアドバイスは難しいかもしれません。




強いて言うなら、やはり野球というものは点取りゲーム。少し前までは、高い投手力を保有するチームが有利とされていましたが、ここ何年かでは、どちらかといえば打撃力に優れたチームが上位に来る傾向があり、東日本リーグでいえば、昨年3位だった埼玉ブルーライトレオンズや優勝した東京スカイスターズなどのチームを見ると、やはり上位から下位打線までどこからでも点が取れる強力打線がシーズン通して目立っていた印象でした。



逆にチーム打率が低かったビクトリーズや大阪ジャガースの2チームは最下位に終わってしまいました。しかし、打撃力が強くても、横浜ベイエトワールズのように投手力が崩壊していると、投打の歯車噛み合わないような試合が増えてしまいますから、もちろんある程度の投手力は必要で……」




そんな感じで、野球が詳しくないと自負していた占い師さんの野球談義が10分ほど続くのであった。







「長々と失礼致しました。あなた様が北関東ビクトリーズの職員さんと聞いてつい……」



「いえ、気にしないで下さい。………もうずいぶんとご存知のようですが、そのビクトリーズが今シーズンは開幕から絶不調でして、何か運気が上がる方法などがあれば教えて頂きたいのですが……」




「分かりました。早速占いましょう。準備をしますので、少々お待ちを」




そう言った占い師さんは、横のテーブルから何かを俺の目の前へと移動させた。



何やら管のついたカジノのルーレットのようなものと、丸い形をしたカードの束。



それを用意すると、彼女はまた俺の目の前に座った。



「私がよくやっているのは、ロワンドマランという、東南アジアに古くから伝わるものでして、これはその人の勝負運を計るのに最適なんですよ。さっそく占っていきましょう」




占い師さんはまず、丸い形をしたカードに手を伸ばし、それをテーブルの上に並べた。全部で30枚か40枚かそこら。そこから俺に2枚のカード選ぶように指示した。



俺はあまり深く考えずに、真ん中付近にあったカードと右端にあったカードを選んだ。



その2枚を占い師さんがひっくり返すと、犬のようなオオカミのような生き物が今にも飛びかかってきそうな雰囲気で唸っている絵と、草原の丘のような場所で幾人もの甲冑を着た騎士が生き絶えているような怖い絵が出てきた。

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