400字ショートショート集~30秒のお話~

ちろ

ショートショート十把一絡げ

1話 その両手に急須を

 両手が急須になると同時に、僕の生活は一変した。

 

 突然だった。

 1週間前、手首から先が急須に変化してしまったのだ。

 

 歯磨きに入浴、トイレ、食事……あらゆる場面において、友人の介護が必要な身体になってしまった。扉の開閉などの、ちょっとした動作を行うのも一苦労だ。肘やら手首やらを上手く駆使しなければ、ドアノブを捻ることすら出来ない。

 

 はぁ……。

 まったく、どうしてこんなことに。

 

 唯一救いがあるとすれば、この急須で淹れた緑茶は格別に美味しい、ということだろう。僕の介護に来てくれる友人たちの中には、それを目当てにしている者もいる—―なんだか複雑な気分だ。

 

 まあ、悲観的になっても仕方ない。不便になった両手を見ていると、沸々と怒りが湧いてくるときもあるが、今は、自分に出来ることをやろう。


 ピーーーーッ!!

 

 僕は、ヤカンに変化した頭部を傾けて、急須の中の茶葉にお湯を注いだ。

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