神様の奇妙な話

相田将

お願い

どうやら僕には生まれもった

俊足という才能があるみたいだ。

小さな頃からトレーニングもした事なく

小学生の頃から運動会は

ぶっちぎりで1番を取っていたし

小学生の100m走の県大会記録を更新した。


僕は中学に上がってから

トレーニングも真剣に初め部活にも入った。

将来はオリンピック選手を本気で

目指していたし

金メダルだって夢物語ではないと

信じていた。

その為にも陸上の強豪校に入って

プロへの近道を志していた。


しかし中学の最後の大会を前にして

僕は足を怪我してしまった。

だが大怪我ではない。

ひねった程度だ。

だが選手にとっては絶望的である。

ベストコンディションで

走れなければロクな記録は出ないし

強豪校からのスカウトもないだろう。


僕は怪我をした事は周りには隠していた。

なんとして明日は走ってスカウトされなけばならない。

でも怪我では走れない、

ならどうするか。

僕はある噂を聞いたことがあった。

それは近所にある神社に

お願いを叶えてくれる神様がいるという事を。

そんな話を心底信じている訳では無いが

僕は人生が懸かった明日の為に

藁にもすがる思いだった。


明日起きれば痛みが無くなる気休め程度の

お願いをするつもりで僕は神社に向かう。


神社に到着し目を伏せお願いをしていると

前方から形容しがたい光が

声を発しながらこちらに近づいてくる。

「願いを一つ叶えてあげよう」


僕は一瞬腰を抜かしそうになったが

案外大丈夫なものだ。

これが噂の神様かと不思議と

状況を飲み込んでいた。


そんな事よりも僕の頭は

本当に願いを叶えてくれるのかという事すぐに一杯になった。

「足が速くなりたい!!」

咄嗟に出た言葉だった。


神様と思わしき光は

「正確には?」

と返してきた。


思わぬ返答に少し戸惑った。

確かに足が速くなりたいとは

良く聞く言葉だが

抽象的すぎる。

僕は怪我さえ治れば良いと思っていたが

せっかくの好機を前に欲が出た。

僕の100mの自己ベストは10秒8である。

中学生の中でもかなり早い方だが

どうせなら中学記録も塗り替えてやろうと

中学記録である10秒56より少し速い

10秒55で走れるように願った。


「神様!お願いです!100mを10秒55で走れる足にしてください!」



すると神様らしき光は

スーッと闇へと消えていった。


現実感が戻ってきたと同時に

自分の足が本当に速くなってるか

すぐにでも確認したくなり

僕は夜のグラウンドで1人走った。


「速いっ!」


思わず口からこぼれた。

自分でも実感する程に明らかに速くなっている。しかも足も痛くない。

これならば明日の大会も問題なく優勝し

スカウトが貰えると興奮した。


そして迎えた最後の大会

僕は圧倒的速さで優勝した。

記録は中学記録最速の10秒55だ。


次の日から中堅高から強豪校含め

スカウトの話が後を絶たない。

僕は1番実績のある強豪校へと進学した。


やはりあの神様は本物だったと、

今になって実感する。

いや今から死ぬまでずっと

実感し続けている。


僕は高校に進学してから

どれだけ100mを走っても

10秒55という記録しか出ない。

それ以下でもなければそれ以上もない。

どんな風が吹こうが

どんな体のコンディションだろうが

10秒55である。

この記録は高校生でも速い方だが

オリンピック選手は絶望的である。


こうして僕の夢物語は終わりを告げた。



ーーー神様がいなかった世界線ーーー


僕は怪我で最後の大会をロクに

走れなかったものの進学した中堅高で

着実に成長を見せ

20歳の頃にはオリンピック日本代表に選ばれ

24歳でオリンピック金メダルを獲得した。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る