「むかしむかし
天野太洋
本編
あるところに一人の女の子がおりました。
かの女の名前は
かの女は世界に
きっといつか、だれかに見つけてもらえる日がくるはず。
そう
今日はおいのりを始めてちょうど一年。
「こんな
◆
明くる朝、かの女は目を
おいのりこそ
今まで話せなかったぶん、いっぱいおしゃべりをして。
いっしょにおさんぽとひなたぼっこに行って。
ふたりでごはんを食べて。
しかし、こんなに幸せな日は長くは
かの女に
◆
次の日、
一週間ぶんのごはん、まっくらな夜を
お昼12時のチャイムが鳴るころ、
てくてく、てくてく。
ふたり
かつてはいちょう
かの女は悲しい気持ちをふりはらうように、大きな声で話し始めました。
「あたし、毎年クリスマスにここのイルミネーションを家族で見に来てたんだ」
「イルミネーション……。かつてはそんな、もよおしものがあったんですね」
「えー、この町に住んでてここのイルミネーション見たことないとか、
またここに来られたら、いちょうの代わりにあのでっかいオブジェでもかざり
「……はい!」
「ゆーびきーりげんまん……」
さっきまでの悲しい気持ちはどこへやら、ふたりのかおには
ふたりががれき
そうして夕日もしずみきり、
ふたりそろってくずれかけた
もぐもぐ、もぐもぐ。
なんだか
夕食のあとは明日に向けてねる時間です。
ふかふかのブランケットでぐるぐる
今日はおいのりできないな。
「あっ! 流れ星!」
かの女は思わず立ち上がって、ほしが流れたほうを指さします。
その間にもまた一つ、二つとながれぼしが光りました。
「あ~まってまって!
どうしよう、すぐには思いつかないよ~!」
かの女があわてている間にも、いくつものほしがとぎれることなく
「あっ、そうだ!
病気が
ふぅ。これでよし!」
かの女は
「うるさくしちゃってごめんね。流れ星を見られたの、
そういえば、あなたはお
「いいんです。あれは、
「こんなにいっぱい流れてるんだよ!? きっとなんでもかなえてくれるって!
あたし、二つ目の
かの女のその楽しそうな様子を見ていると、思わず
「―の――――――て―――ように」
「おっ、意外と
でも、
ほら! あと二回!」
ふたりの
◆
病院を出て二日目。
日がのぼるのと同時に、ふたりは出発しました。
てくてく、てくてく。
休けいをはさみつつ、今日も
ふたりがおしゃべりしながら進んでいると、明け方には雲一つ
お昼には
どんよりとしたくもり空に、お昼ごはんを食べる
ふと、かの女が飲んでいた温かいスープに、小さな白いつぶが落ちました。
「雪だ!」
「
「すぐに
「えー、なんでー!? 雪だるま作ったり、
「はぁ。……いいですか?
もし雪が
あせりからきつくなってしまった言葉に、かの女はいつもと
「そんなときは、かまくらを作ればいいんだよ!
雪で遊べて、雪をしのげる場所も用意できて、えーっと……そう!
「もう! じょう談を言っている場合じゃないんですよ!?
とにかく、今は屋根のある場所を
それから屋根のある場所が見つかったのは30分後。
しかし、ふたりの
「あーあ、
「よかった。どうにか
でも、地面がこおってつるつるです。
「えー! 遊べないうえに、今日はここまでなの!?
「だ、め、で、す!
今日は早めに休んで、明日に
「ちぇー、けちんぼー!」
◇ ◆
三日目。
今日も朝早くから、ふたりは歩き始めます。
……てくてく、……てくてく。
かの女の歩みは
それだけでなく、
「もう、あきらめましょう?
これ
「大じょうぶ。まだ歩けるよ。
ううん、歩けなくなったって、はってでもたどり着いてやるんだから……!」
かの女の決意はダイヤモンドのように、いえ、それ
「どうして、こんなにぼろぼろになっても、歩き
お家にたどり着けたとしても、あなたの家族はもういないんですよ!?
「それでも、いいの。
家族がいなくたって、ここの
どうせ、助からないんだもん……! あたしは、あの病院でちょっとでも
ぽろぽろと大つぶのなみだを流しながら、それでもかの女はけん命に足を前に進めます。
いつの間にか、
ふたりが歩くずっと先の方にしずんでいく夕日が、今のかの女の
「今日はここまでにしましょう!
いつもどおり、ふたりは安全な場所を
食べ終わってすぐに、かの女はねむってしまいました。
草木もねむる
空を見上げると、数え切れないほどたくさんの流れ星が走っています。
「――――お家にたどり着けますように」
何度も何度も、流れ星がつきるまで、いのり
◆
四日目。
今日もふたりは、お家を目指して歩きます。
かの女の歩く速さは、
それでも、かの女はあきらめません。
歯を食いしばって、一歩、また一歩……前に進み
◇
「やっと、ここまで来れた……!」
今にも消え入りそうな声で、かの女はつぶやきました。
目の前に立ちはだかるは、かつては緑あふれる公園だった小高いおか。
その向こう
おかと言っても、そのこう配は3度もないくらいなだらかなもの。
しかし今のかの女にとってそれは、切り立ったがけのように
もう足が
「……待ってください。わたしが、あなたを
「ありがと」
このおかの向こうにあるのは、本当にかの女の
病院の
この先にはたしか、
もんもんとしながら登っていると、
「あの、本当に進んでいいのですか? 今から病院にもどってもかまわないんですよ?
この先はきっと知らない方が――」
「進んで」
かの女の一言に、頭にうかんでいた
目下に広がるのは、海。
かの女の住んでいた町ごと、全てを飲みこんだ
「下ろして」
かの女の声はふるえていました。
ゆっくりと、かの女をおかの
かの女は海から目をはなさずに、わたしに問いかけました。
「知ってたの?」
口ごもるわたしに、かの女は
「知ってたのね」
「……海があるとは知りませんでした。おかの向こうは、わたしたちには行けないとだけ」
「知ってたんじゃない! あたしをだまして楽しかった?
わざわざ行けないところに、じゅ
「わたしは、そんなつもりじゃ――」
あの時、何と返していたらよかったのか……。
「うるさいっ! 言い
◆
星明かりの下、わたしはおかのふもとで一歩登っては下るのを、もう何時間もくり返していました。
『ロボットなんかに』
その言葉が
ふと空を見上げると、あの夜と同じようにたくさんの流れ星が
「流れ星……。
わたしが一年も
『この星に人が帰ってきますように』
「
たった一人の女の子にすらこばまれて、……どの口がそんなこと
そういえばあの時、かの女は何を
「『病気が
『
次のしゅん間、わたしは走り出していました。
もちろん目指すはあのおかの
◆
「けい子!」
その体は夜風にさらされて
「……わたしは
生きている人の、生きようとがんばっている人の手助けが仕事なんです!」
かの女は全身どろだらけでした。きっと、ここまではってきたにちがいありません。
「わたしはロボットとして、死のふちにあっても生きようとしたあなたを助けてみせる! 死なせてなんかやるもんか!!」
ぐったりとして
わたしは
目指すは病院、かの女が
◆ ◇
お昼12時のチャイムがひびく中、わたしは病院にかけこみます。
5日前に開いたばかりのそこへかの女を横たえ、ふたを
ピーピーピー
とつ
『エラーコード10100e バッテリー ガ フソク シテイマス』
パネルに
「ポッドがこわれていなかっただけ、
わたしは自分の
とたんにエラー音が鳴り止みました。パネルのバッテリー
わたしは今度こそポッドを起動させました。
ピピッ
『プラン27315 ヲ ジッコウ シマス フェーズ2 マデ ノコリ 309ビョウ』
「これで、かの女の時間は止まった。あとは……」
わたしは部屋のすみに立てかけられていた台車に目を向けます。
「あそこまで、運ぶだけ」
◇
病院を出るころには、日はかたむきかけていました。
まだ
決してかの女を落としてしまうことなどないよう、しん重に。
四日前ふたりで歩いたがれき
そこかしこに
「ここから先は、台車では
わたしはかの女の入ったポッドをかかえました。
その
今にもひざのパーツがこわれてしまいそうです。でも……
「大じょうぶ。歩ける」
まだ、こわれた
両足をきしませながら、足場の悪いがれきのじゅうたんをわたります。
ゴッ パキッ
ギ……ギギ ゴッ
ミシッ ゴッ ベキ
一歩ふみしめるごとに、わたしの足からする
「速く! わたしの足が使えなくなる前に、速く……!」
ゴッ バキバキッ
ガンッ ゴッ
――
◆
――ズ……ズズッ ゴッ
そのオブジェ――ロケットには、朝日が後光のようにさしていました。
わたしは、かの女の入ったポッドをゆっくりと地面に下ろし、ロケットに近づきます。
よごれや
いつもと
ロケットの
数日ぶりの
朝起きたら
晴れたお昼は
夜は
頭にうかんだ
「けい子を! けい子を助けるんです!!」
工具と
ロケットにもどると、わたしは
足りていなかったロケットの
……わたしのたからものをたくして。
できあがったロケットにかの女の入ったポッドを運びこみます。
ポッドのバッテリー
あとはロケットからポッドにじゅう電用のケーブルをつないで、
しかし、持ちこんだ部品はロケットの
ケーブル、ケーブル……。
どれだけ
「いや、まだある。これを使えば……」
うつむいたわたしの目に入ったのは、自分の足でした。
◇
バン、と
ロケットを
わたしには歩くための足がもうありませんでした。
わたしはゆいいつ
決して、あきらめた
「歩けないのなら……」
右うでにありったけの力をこめて、体を引き
「はってでも、進む!」
ずる、ずる。
――――
『バッテリー ノコリ 2パーセント キョウセイ シャットダウン マデ アト30プン』
「バッテリー切れで終わりになんて、させるもんですか!」
わたしはしずみゆく夕日にあらがうように、
◆
決死の思いで
『シャットダウン マデ ノコリ1プン』
開け放たれたままのドアから中に入ると、いつも
あと3メートル。
……2メートル。
……1メートル。
『アト10ビョウ』
「うるさいんですよ!」
めいっぱいのばしたうでをふりおろします。
ポチッ
わたしが
パチパチパチパチ
青年の目からはとめどなくなみだがあふれていました。
「ご
それでその……、
青年は鼻をかんで、
「……なに?」
「かの女を、
あれからどのくらいの時間が
それでも、
どうか、どうかかの女を見つけて、
青年は
「
かの女は5年前、死んだから」
どうして……?
ロケットは
……できていなかった?
ポッドもちゃんとじゅう電できるようにケーブルをつないだ。
……ケーブルが
わたしが、かの女を、
「
全部、キミが助けてくれたおかげだ!」
青年は
「そういや、
ぼくは
キミが
青年のくったくのない
青年は
「ぼくは、けいちゃんに
キミの
「ぼくは、この
ねえ
「――『流れ星』に乗ってみない?」
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