第4話  自己紹介

 ん? 今なんて……?。


 「放送部? 放送部なんてこの学校にあったの?」


 自慢げに胸を誇る男子高校生。ここには確か十個ほどの文化部が存在しているが、放送部なんて部活は聞いたことがない。もしかしてと間違えていたり…


 「噂程度でなら耳にしたことあるでしょう。他の文化部と一線を引く部活の存在を」


 黙って首を傾げる私を確認したのか外国人生徒の方が一言付け加えてくれた。


 曰く、その部活は青谷畑高校においての学校宣伝の全権を任されており、学校の一部さえも牛耳る権力を持つ。


 曰く、部活名があやふやで活動内容も用途知れず、誰も耳にしたことがないわりにその存在だけは学年を通して知られている。


 他にもさまざまな噂が行き帰りしているが、特に有名なのがこの二つ。


ーーと言うことは本当に当たったってこと?


 一年生の中で噂のなっている文化部。入りたいと言っても活動場所がわからないんじゃ当然と言えるが、こんな場所にあるなんて。まさに灯台下暗し。


ーー張り紙に??って書いてる部活がどんなものか興味を持って尋ねて見ればまさかあの噂の部活だとは、丹生に言ったらどんな顔されるんだろう。活動場所が廊下の先の教室だとは普通は思わないだろうし。


 はあ、とため息をつく。様子を見かねた外国人生徒が再びこちらを向いた。


 「ここにくる人間はみんなそう言う表情をするの。それにしても、よく活動場所が分かったわね」

 「写真部の人たちが話しているのを聞いちゃって…」

 「写真部?、そんなの呼んだの?」

 「押しかけてきたんだよ。どうせうまい具合に先生から聞き出したんだろ、睨みつけたらズコズコと引き下がりやがったけどな。度胸のねえ野郎どもだ」


 もう一人の男の子がつまらなそうに吐き捨てるが、こんな口の悪い不良みたいなのに睨まれたら逃げ出すのもわかる。運がないな、写真部。

 目元が鋭い上に口が悪く制服である学ランを脱ぎ捨て腰に巻いている。こんな劣等生の代表格みたいな人がこの学校に居ることにまず驚きだよ。


 「なんだ、何か言いたいことでもあんのか」

 「ひゃ!?、いや、別に」 

 

 つい眺めたのが仇となったのか、不良が話しかけてくる。思わずビクッとなった私だが、すかさずもう一人の男の子が救済を与えてくれた。


 「はいはい、そこまでにしようか。何せ、久しぶりの体験部員だ。こんなところで逃すわけにはいかないからね」

 「初っ端から喧嘩見られて何言ってるんだか」


 ボソッと呟かれた一言は耳に入らなかったらしい。彼は小さく手を合わせ、右にいる外国人生徒の方を促した。


 「紹介しよう。僕の隣でぐちぐちと文句を垂れるこの人はソフィア=レイガン。この学校で唯一のアメリカ人留学生で会計担当だよ」

 「スルーするのね。…まあいいわ、ソフィア=レイガンよ。気軽にソフィアって呼んで」


 そう言って私に伸ばされた手はやっぱり透き通った白色。


ーー恐るべしアメリカ人。肌がすっごく綺麗な上に傷一つない。


 思わず惚れてしまうぐらいの上品な佇まいは見るものを圧倒してるよう。彼女の手を握り返すとふんわり包み込まれる温かさが腕全体に行き渡った。


 途端に放心状態になる私。固まった私を尻目に、彼は呆れながら口を開く。


 「目つきの悪いこっちの男は獅子路ししろ圭志けいじ。不良に見えるけど根っからの善人だから」

 「善人じゃねえ。誰に対しても優しいわけねえだろ」


 照れ臭そうに頭を掻きながら私に右手を伸ばす。この部活の連中はあれか。とりあえず握手をする礼儀正しい連中なのかな?


 「あ、よ、よろしく、お願いします」


 震えながらも手を差し出す。熱くずっしりとした手のひら。金髪美少女とは真逆と言った印象だった。


 「さて、自己紹介も済んだことだし早速この部活のことを話させてもらうよ。具体的には活動方針を」

 「活動方針?」


 私が聞き返すと彼は黒い瞳をクリッとさせてウインクをする。キラキラとした黒目にはこの中で一番が強いように思えた。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る