大陸史俯瞰

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 大陸史において、無欠の真理とされる言葉がある。

 それは、

「大陸の平和はクエリスタ王国によって始まり、大陸の暗黒時代はクエリスタ王国によって始まる」

 である。

 クエリスタ王国はそれまで四分五裂そのものの大陸を、十年の時を経て鮮やかに統一し、それまで争いに次ぐ争いの日々を送っていた民衆に、平穏をもたらした。

 その平和な時代はしばらく続いたが、クエリスタ王国とて永遠に続くものではない。

 やがてクエリスタ王国は内紛、内乱のうちに瓦解し、大陸には覇を競うものが乱立し、ついにクエリスタ王国成立以前の状態へ戻ったのであった。

 各地では元の貴族家が自分の領地を守るために兵を集めて、あるものは王を名乗った。

 あるいは自分が仕える主君に取って代わる野心家が、貴族の首を取り、何の正当性もないまま領主の座につくこともあった。

 これらの権力者は片手では握手をし、もう一方の手で相手の腹を探り、場合によっては容赦なくその喉笛に噛み付いていく。

 この乱世においては、「至高の法」と呼ばれたクエリスタ法典も忘れ去られ、強きものは弱者から全てを奪い、弱者はさらに弱いものから何もかもを奪い去った。

 無法が常態となり、殺人、強奪は決して珍しくもない世界が戻ってきた。

 裁判さえも正当に行われず、各地の王を名乗るもの、領主を名乗るものが、物事の正しさを暴力を後ろ盾に自在に裁定した。それを咎めるものもまた自在に裁かれる対象なので、咎めるのは愚かというものである。仮に咎めるのなら、銭や若く美しい女を差し出すなどをして裁判官を懐柔する必要があった。ただ、それさえも確実ではなかったのだが。

 こうして大陸は未曾有の混沌の只中に転落し、民の生活はいつ終わってもおかしくない不安定なものとなった。


(リッテンバーグ侯爵による著作「大陸史俯瞰」より抜粋)


(続く)

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