第4話
依頼してから一週間目の朝、契約通りに笹倉さんから連絡があった。
報告は対面で、家の近くにあるカフェで落ち合うことにした。
カフェに入ると、奥の席で手を振る人がいる。私は時間通りに着いたけど、笹倉さんはもうとっくに来て待っていた。
「お待たせしました」
「いえいえ、先に座っててすみません」
あらためて二人で飲み物を注文してから席に着くと、笹倉さんは鞄から手帳を取り出す。
「これまでに分かったことを報告しますね」
「はい」
「柴岡さんから聞いた話を元に、津田駿さんを探してみたんですが、今のところ該当する人物が見つかりません」
「えっ」
「ご実家のおおよその住所とお名前、生年月日から探してみたんですが」
「……では依頼は無理ということで?」
「いえいえ、僕の腕の見せ所はまだこれからです!」
笹倉さんが笑いながら、力こぶを作って見せてくれた。
それから彼は事務所であった時よりもずいぶん打ち解けた話し方になった。服がスーツじゃなくて普段着だからかもしれない。
「SNSで知り合ったということだったので、そこをよく見てみました」
あの人のSNSは別れてからずっと何も書き込まれていない。かといって閉鎖されるでもなく、今でもそこに行けば見ることができた。
見たら何とも言えない気持ちになるから、そのアプリを開くことも滅多にないのだけれど。
「新しい書き込みはありませんが、十年前の写真やコメントを使っていくつか心当たりを当たっています。来週の報告の時には何らかの進展があると思うので期待しておいてくださいね」
「はい。あの……ありがとう」
「いえいえ。これが僕の仕事ですから」
じゃあまた!
そう言って背を向けた笹倉さんがまるであの人のようで、思わず追いかけようと手を伸ばしかける。
ずっとあの人のことは諦めていたのに。
今は何だか手が届きそうで。
そんなことを考えている自分に、ちょっとびっくりした。
笹倉さんはあの人じゃないんだから。
ちゃんと分ってる。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます