第60話 え? 猫耳族の族長がめちゃくちゃ怪しいんだけど?

俺たちは猫耳族の女の子アイラとリリーに連れられて猫耳族の里へ向かった。


「アル殿、今、猫耳族のみんなは人族にかなり敏感になっています。少々嫌な思いをさせてしまうかもしれません。しかし、それはどうかご容赦をお願いします」


「う〜ん。そうだろうな。さっきもいきなり問答無用で弓矢を雨あられのように浴びせられて、精霊魔法でひき肉にされそうになったばかりだしな」


「アル君、ちょっと意地悪すぎない?」


うん。意地悪すぎるとは思うけど、リリーを虐めると耳がキュンと垂れて凄い可愛いのだ。


いや、決して俺はドSの心境で虐めている訳じゃないぞ。


だってな。


猫耳少女なんだぞ?


モフモフの尻尾まであるんだぞ。


それがシュンとなって、耳が垂れてキュンとなるんだぞ。


もう、スキル『こっそり魔法写真』発動しまくりなの。


「アル殿、私も抗議します。私はこれでも猫耳族一の戦士、そこまで言われると傷つきます」


「うん、さっき腰を抜かしてパンツ丸見えだったのが猫耳族一の戦士なのか?」


「アル殿〜」


リリーは涙目で俺に訴えてくる。


もう、猫耳の女の子の涙目たまらん。


「ねえ、アル?」


「うん、何? クリス」


「何、鼻の下伸ばし切っとんじゃぁぁぁぁあ!!!」


ボクッ!?


俺はクリスに強力なアッパーカットを食らって、空高く飛んで行った。


☆☆☆


程なくして里へ着いたが、あれ以来リリーを揶揄うのは止めた。


いや、止めないと俺がクリスに袋叩きに合うから。


「な、なんで人族が?」


「きっと、あれが人攫いに違いない」


「リリスちゃん、早く隠れて」


リリーの言う通り、猫耳族の人達は俺達に警戒心MAXだ。


「アル殿、まずは族長に面会して頂きます。族長から許可が下りれば、皆の気持ちも変わると思います」


「わかった。まずは君たちの族長に挨拶するよ」


そうして一際大きな家に連れられていく。


察するに族長の家なのだろう。


きっと、髭がもさもさに生えた猫耳族の老人が出てくるに違いない。


と、勝手に思い込んでいた。


しかし、リリーに呼ばれて出てきたのは。


「私が族長のルナです。しかし……人族は歓迎できません」


「族長! この人達は違うのです! あのアルベルティーナ様からの遣いなのです」


族長は若い女の子だった。リリーと同じ位か?


そして、リリーが族長に進言するが。


「リリー、悪いのですが、そのアルベルティーナという人族の女のことは私は知りません。前族長ならご存知だったのかも知れませんが、あなたもご存知の通り、前族長は亡くなり、1年前から私が族長です。ですから、それで里を危険に晒す訳にはいきませんね」


「し、しかし、このままでは猫耳族の女の子が全て拐われてしまいます。原因を探る必要があります。だから、私はアルベルティーナ様に文を出したのです」


族長は眉をしかめたものの。


「わかりました。猫耳族一の戦士、リリーの言葉を信じましょう」


俺は驚いた。まさか本当にリリーが猫耳族一の戦士とは……


猫耳族大丈夫か?


こいつは敵前でパンツ晒すようなヤツだぞ。


むしろ守ってやりたくなるぞ。


そして、族長のルナが視線をリリーから俺の方に向けると。


なんだこれ?


俺のパッシブスキルに感があった。


これは魔法だ。


極めて微弱な魔力。


だが、この感じは以前感じたことがあるような気がする。


それはとても悪い思い出と共に思い出した。


エルヴィン?


そう、この感じ、クソ勇者エルヴィンを見ている時に感じたものだ。


俺は思わずスキル『見てるふり』を発動してルナを見ながら目を閉じた。


エルヴィンの魅了の魔法のことは師匠やクリスから聞いていた。


だから。


「わかりました、では、アル殿、一生猫耳族のために働いてくれますね?」


咄嗟に目を瞑った俺、だがここはあえて芝居をする。


「わかりました。ルナ様、一生あなたにお使えします」


「えっ!?」


クリスが驚く、当然だろう。


「クリスさん、族長は見ての通りの美人なんで大抵の男性はこうなりますけど、別に浮気とかじゃないので、許してあげてくださいね」


リリーは屈託なく言うが、違和感に気づいていない。


おそらく、ほとんどの男が言いなりになるからだろう。


それともリリーも魅了系の魔法に冒されているのか?


わからない。それにクリスは耐魅了系の魔道具を身につけているけど、アリー達は?


「ちょっと、アル?」


「(後で話すから)」


「(わかったわ。何かあるのね)」


俺はクリスと幼馴染固有のスキル『見つめ合うだけ』で会話をした。


「アル君? 仕方ないですね。ルナ族長のためなら」


「ご主人様、そうです。一生猫耳族のために働くのです」


アリーもリーゼもやはり魅了系の魔法に屈している。


いくらなんでも一生猫耳族のために働くなんて唐突すぎる。


「いや、アル殿も族長に心を奪われたようだな」


「ふふ、違います。リリー、皆さん、志し高く、私達を助けて頂けるのです」


いや、リリー。お前もおそらく、猫耳族全員……魅了系の魔法に侵されている。


多分、奴隷狩りに拐われているのも。


俺はこの問題の核心にあっさり到達したものの、問題の大きさにただ驚いていた。

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