第59話 猫耳少女の姉を懲らしめる

「……あ、あれ? 風の精霊さん?」


尋常ではない量の冷や汗を流している猫耳族の女の子に向かって歩き出す。


懲らしめるためだ。


人の話に聞く耳もたず、いきなり弓矢を雨のように撃って来た上、風の精霊魔法で人をひき肉にしようとか、勘違いにしてもお仕置きが必要だ。


俺は闇堕ちした時のアリーの表情を思い出してふにゃりと歪んだ笑みを浮かべる。


すると。


「ひ、ひぃ!?」


案の定猫耳族の女の子は後ずさり、びびってしりもちをついてしまう。


腰が抜けたのかM字開脚になってパンツ丸見えなのに気が付いていない。


スキル『こっそり魔法写真』


俺は一体これ何に使えるのか以前から疑問に思っていたスキルを使用した。


このスキル、鮮明に見たものを記録できるが、自分しか見ることができない。


後でゆっくり堪能しよう。


「お前、パンツ丸見えだぞ」


「え!? きゃっ!!」


あわてて足を閉じるが既に記録済だ。


俺ってあくどいな。


見ると猫耳族の女の子は涙目で俺を見てぶるぶると震えている。


そして、彼女は懇願し始めた。


「お、お願い!! 奴隷にするのは私だけにして! 妹のアイラは見逃して! 後生だから!」


「だからお姉ちゃんの勘違いだから」


「そうだ。俺達は奴隷狩りじゃない。師匠のアルべルティーナから猫耳族のピンチを救うよう言われてここへ来たんだ」


「へ? アルべルティーナ様の?」


俺はガクッときた。


師匠の関係者ってバカしかおらんのか?


なんで最初に話し合わないかな?


妹のアイラはちゃんと話し会おうとしたぞ?


いきなり弓矢を乱射とか普通するか?


俺が死んだらただの殺人犯だぞ。


「お前、いくらなんでもいきなり弓矢乱射とか酷すぎるだろ? いつもそんなことしてるのか?」


「ち、違う。妹のアイラがさらわれるかと思って、つい夢中で」


そういうことか。まあ、情状酌量の余地はあるな。


「アル様、お姉ちゃんを許してあげてください。お姉ちゃんは猫耳族一の戦士だけどそそっかしいし、勘違いや思い込みが激しくて、ご無礼をすいません」


アイラが頭を深くさげた。


「わかった。そういうことなら水に流す。それに猫耳族のピンチを救うのが今回俺の使命だから里まで案内してもらうことでちゃらだ」


俺はとりあえず互いに誤解が解けたようなので安心するが、そこでクリスが口を挟んできた。


「ねえ、アルがワイバーン倒したらレベルが50からいきなり60に跳ね上がったんだけど、これどういうこと?」


「へ?」


何のことだ?


あ! そうか、俺の経験値10000倍はパーティにも適応されるんだった。


「クリスちゃん。実はアル君とパーティ組んだら最初の一日でレベル99になっちゃってカンストしちゃったんだけど、そんなの些末なことだから驚いてちゃだめだよ」


いや、驚けよアリー、些末なことって、レベルが一日でカンストするって普通ありえんだろ?


「アルってほんとに強くなったんだね」


「そうよ、私のアル君はね。とっても強いの」


「アリーちゃん。アルは幼馴染の私のモノよ、わかる?」


例によって黒い短剣と聖剣デュランダルでギリギリと鍔迫り合いを始める。


「そのうちどちらかが死ぬのです。ご主人様は良いのですか?」


「蘇生の魔法使えるから大丈夫だよ」


「「いや、殺し合いは止めさせて!!」」


何故か猫耳族の女の子の姉妹に怒られた。


「まあ、そんなことより師匠のことなんで知ってるんだ? 教えてくれないか?」


「わ、わかりました。まずは私の名前はリリーといいます」


「そっか、自己紹介がまだだったな、俺はアル、冒険者だ」


「私はご主人様の奴隷でリーゼと言うのです」


「私はアルの幼馴染の女の子で彼女のクリス、ちっ!? 惜しい」


「クリスちゃん、予備の短刀を隠し持つのは私の十八番ですよ。あ!? 私はアル君の恋人でアリーと言います。やん、やだ、毒入りの石礫が外れちゃった」


いつから恋人になったアリー?


俺は知らんぞ。


それに毒の石礫とか、どんどん手段が姑息になって来たな。


「えっと、あなた達どういう関係?」


「その辺は有能な奴隷の私がぼんくらな頭脳しか持たないご主人様に代わって説明してやるのです」


このクソ奴隷、俺のこと好きな癖に口悪すぎん?


俺達の経緯をリーゼが説明すると。


「う~ん。つまり、三角、いや四角関係で奴隷のリーゼさんが正妻な訳ですね」


「「ちがーう!!」」


俺はもうどうでもいい。


ていうかアリーとリーゼは何とか返品したいでち。


一応俺の彼女はクリスだし。


怖いけど。


まあ、それはおいておいて猫耳族の女の子のリリーは師匠との経緯を説明してくれた。


「3年程前に私がワイバーンに攫われそうなところをアルべルティーナ様に救われまして、その後、里に招待して歓待させてもらったのです。あの頃は人さらいもいなくて、人族との交流も盛んだったのです。ですが、猫耳族の戦士志望だった私はアルべルティーナ様に指南を受けまして、その時に精霊魔法のスキルを与えてもらったのです」


なるほど、あの弓矢の技術はレンジャー系か盗賊系のスキルだと思ったが、精霊魔法が使えるのが不思議だったのだが、師匠が原因か。


師匠は2000位のスキルを持っていて、多分『スキルレンダー(スキル貸与)』を使ったんだろう。


レンジャー系のスキルは『隠ぺい』や『弓術』だ。


精霊魔法なんて精霊魔法使いのジョブじゃないと使えない。


それにかなりレアなスキルだ。


俺ですら持っていない。


「ところでアルべルティーナ様とアル殿はどういう関係なのですか?」


「ああ、1か月ほど一緒に同棲してたんだ」


「「ええっ!!」」


何故か二人が俺を見る目がおかしい。


「あの……一体何人彼女いるんですか?」


おかしい空気が漂い始めた。

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