第44話 ご主人様大好き……とは言わないのです

「俺のリーゼに何してんだ?」


「……ご、ご主人様!!」


全く、醜悪なものは何処までも腐ってやがる。


暴漢に組み伏せられ、あられもなく衣服は乱れ、その白い肌が露わとなり、艶めかしい両脚が露わになっていた。リーゼの目には涙が……


目に涙を浮かべた女の子に乱暴とかありえねぇだろ?


「な、なんだお前!?」


「ああっ!? お前なぁ!!」


事情は探査のスキルで全部聞いていた。


宿に帰っていないリーゼを探したら、乱暴されそうになっていた。


理由なんて関係ない。


どんな理由があろうと不条理に女の子に乱暴するようなヤツの言い分に耳を貸す気はない。


「お前ら、自分達が何をしているのかわかっているのか?」


「おいおい、そいつはな。学園の貴族様の子弟様達のひんしゅくを買っているんだぞ」


「そうだ。俺たちに逆らうとどうなるかわかってるんだろうな?」


全く、今度は他人の虎の威を借りるのか?


「もう一度言う、リーゼは俺のものだ、傷つけるヤツはただでは済まさん」


「馬鹿か? この国の貴族様の大半を敵に回す気か? この女にそんな価値があるとでも思っているのか?」


「こいつの言う通りだ! こいつは男の敵だぞ! 散々男を弄んで、貢がせて、振って悦に浸る最低な女なんだよ! お前も男だろ? わかんないのかよ!」


「わかる訳ないだろう!!」


わかる訳あるか! クズの考えなんてな。


「お前知っているのか? この女は第8王女殿下を毒殺しようとしたんだぞ!」


「ち、違う! あれは脅かそうとしただけなのです……ほんとの毒じゃないのです。それなのに本物みたいに言われて……いくら私がクズでも、人の命までなんて取らない! 信じて!」


リーゼの言っていることは本当だろう。実はアリーから聞いたのだが、他のことは事実だが、毒殺の件に関しては証拠はどこにもない。


肝心の毒がなかったのだ。


ただ、それ以外は本当のことだったから、一番重要なことも本当のこととされた。


「信じられる訳ないだろう? 散々男達を弄んでどん底に突き落としてきた悪女の言うことなんてな!」


「そうだぜ。クズの言うことなんて聞く耳持てるか!」


「______俺は信じる」


「は?」


「お前、馬鹿か?」


「こいつ、弄ばれてやがる。だから大勢そうやって誑かされてきたんだよ、馬鹿がぁ!」


馬鹿? 馬鹿でいいさ。


ただわかるのはな。


「リーゼのして来たことは知ってる。リーゼが男を馬鹿にしていることも、男を弄んで愉悦する性格なこともな、だがな______ 今クズなのはお前たちの方だろ?」


「ああ?」


「こいつ頭死んでるのか?」


「頭死んでるのはお前らの方だろ? どんな理由があろうと女の子に乱暴するようなことが男のすることか? 俺は無抵抗で目に涙を浮かべているような子を乱暴しようとするようなヤツらは決して許せないんだよ! だから死ぬ直前位まではぶっちめるから覚悟しろや!」


「けっ! 正義の味方気取ってんじゃねぇ! 馬鹿も極まるとすげぇな! ……そんなに言うならな、俺らをぶっちめて見せろや!!」


次の瞬間男達が視界から消える。


『瞬歩』のスキルか?


「ご、ご主人様……もういいのです。私のことなんて見捨てていいから……」


リーゼが俺を心配して見当違いの言葉を俺に投げかける。


頑張ってご主人様と言って欲しいものだぜ。


信用ないのね、俺。


「いいから、黙って助けられとけ______ すぐに終わるしな」


ヤツらは瞬間移動しているから俺の目に見えていないと思っているのだろう。


さっきから結構近くまで接近して来ている。


おちょくっているのが見え見えで腹が立つ。


ならな。


「おらよっと」


軽く足を突き出す。


ズガァ――――――


一人が派手にすっ転んだ。


まあ、瞬歩のスキルで移動中に転んだらああなるか。


まあ、三人も瞬歩のスキル持ちとか______ でも、負ける気はしないな。


幸いここは狭い路地裏。誰かが通りかかることなんてまずない。


女の子を乱暴するにはいい場所かもしれんがな。


______誰も俺を止められないということでもあるな。


______従って。


「さあ、始めようか……このクズども」


俺はニッと笑うと瞬歩のスキルを発動した。


☆☆☆


「アル! 必ずあなたを見つけるからね!」


アルの幼馴染の女の子のクリスは路地裏を走っていた。


彼女はアルベルティーナにアルの情報を聞いていて、アルの常宿へ向かって走っていた。


向かって走っているつもりだった。


「な、なんでだろう? なんで同じ街なのにいつまでもアルの宿に到着しないの?」


それは道を間違えているからです。


そう、アルの幼馴染の女の子は極度の方向音痴だった。


「……もう、こんな時間。今日は諦めて偶然目の前にあるこの宿に泊まろう」


彼女は気が付かなかった。


それは昨日も泊まった同じ宿……


そしてアルがいつも泊まっている常宿だった。


彼女は街を一周回って帰って来てただけだった。


「……アルがいれば」


もっともではあるが、そのアルを探しているのだからどうしようもない。


こうして、クリスはアルがリーゼを助けるために戦おうとする今! まさにその時。


……近所を通り過ぎた。

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