第43話 罪と罰
男なんて大っ嫌いなのです……!
だから、私は自分にいいよる男達に思わせぶり、そして振って来たのです。
最初は愛想良く、適当に貢がせてから振るのです。
それを散々繰り返してきた。
私が可愛いからってチヤホヤするアホな男にゲンナリしたのです。
誰一人私の内面なんて見てないのです。
☆☆☆
夕方頃、私はご主人様に言いつかったお買い物を済ませて宿に向かっていた。
ご主人様とアリー王女は冒険者ギルドに用事があると行ってしまったのです。
「おい、いたぜ、噂通りだな。やっぱりあのリーゼ・ケーニスマルクだぜ」
私がそんなことを考えていると、不意に後ろから男の声がしたのです。
「ああ、間違いない。思わせぶりなことを言って散々学園の男たちを弄んだ女だ」
私は後ろを振り返った。
一人で心細い時にどうも私の過去を知っている男たちに出会ってしまったのです。
知らない人たち……だけど、私の事を知っているのです。
それも『男を弄んだ』って……。
「依頼者は言えねぇがな、ちょっと顔貸してもらおうか? 懲らしめるよう頼まれてな」
「な、何をしやがるのです?」
夕暮れ時、辺りはもう暗くなってきている。
人気がない処から、なお人通りが少なそうな狭い路地裏に連れ込まれた。
暗い路地裏、私の顔は真っ青になっていると思うのです。
「い、一体、な、何をするのです?」
「何をするかって? そんなの決まってるだろ?」
「そうそう、男が女を懲らしめるって……言わなくてもわかるよな?」
男達は私の手を掴むと、下卑た笑みを浮かべてにじりよる。
な、なんとか逃げないと……
乱暴されるのです。
ゾッとしたのです。
こんなヤツらに。
「お前は一体何人の男に貢がせて、弄んだ? みんな本気だったんだぜ? 相手の気持ち、考えたことないんだろう?」
「……ひ、人違いなのです!」
私は誤魔化そうと必死だった。
「まあ諦めろ。因果応報だ」
……な、何で私がこんな目に?
「ここなら人気はないし『ヤル』ならぴったりの場所だろ?」
「へっ! 違いねぇ。さあ、さっさとやろうぜ!」
「やめてぇ!」
でも男は私の腕を握り伏せたのです。
「い、いたい……! や、やめてよ、いたいよぉ……」
「はは、いい声で鳴くなー」
「や、やめて、やだ、やめ――――て!」
「ほれ、ほれ!」
「あんっ、いたい、いたい、いだい、よぉぉおおおおお!」
「「「ぎゃはははははっはははっ!!!」」」
「おい、口を塞げ! あんまり叫ばれるとな」
そして、布切れで私の口は塞がれたのです。
どうして……どうしてこんな目に遭わなければならないのです?
私によって来る男の方が悪いのです。
一方的に弄ばれる立場なのが悪いのです?
————————今の私が、彼らと同じ立場……なのです。
男が乱暴に私を組みひしぎ、そして、そのまま覆いかぶさった。
抵抗したけど両手とも組み敷かれ、全く身動きができない。
服のボタンが一つずつ外されていき、ついに胸の下着がはだけてしまった。
「お、いい乳してるな〜」
「男が誘惑されるのも無理ないな?」
これから何をされるかと思うと、私の頭には恐怖でいっぱいになったのです。
これは罰なのです……
ふと、頭にそんなことが浮かぶ。
私のやってきたことへの罰。因果応報?
私が男達を弄んできたことへの応報なのだろうか?
私が何故男達を弄んだか?
魔法学園中等部で、まだ婚約者がいなかった頃。
私は学園一人気のある男の子、この国の第一王子レオン様に恋をしたのです。
でも、あの頃の私は今ほど綺麗じゃなかったのです。
おしゃれに目覚めたのは、思わせぶりな王子に翻弄されて、結局こっぴどく振られた時からなのです。
振られた時、悔しかった。気持ちを弄ばれた事が悔しかった。
私が思ったのは。
もう気持ちを弄ばれるのは嫌!
そして、自分を着飾り、おしゃれに気を使うようになった私にたくさんの男が近寄ってきた。
男なんて大っ嫌いなのです……!
私は何も変わってなんていないのです。
変わったのは外見だけなのです。
でも、周りの男の様子は手のひらを返したように変わった。
だから、こんなアホな男達なんて弄んで振ってやるのです。
そうか……。
私はあの人たちに自分がされたのと同じ酷いことをしていたのです。
気持ちを弄ばれるのって辛い。
そして、気持ちを弄ばれるのも、身体を弄ばれるのも同じ事なのです。
私は罰を受けるのです。
この男たちに弄ばれるのも当然の事なんじゃないかなと、そう思えてきたのです。
私はジタバタするのをやめて、諦めた。
「抵抗する気もなくなったか?」
「俺は抵抗される方が好きなんだがな?」
「お前、鬼畜かよ。この方が普通楽でいいだろ?」
あぁ……もう私終わりなのです。
ご主人様、きっと私のこと手放すのです。
男の人ってそういうの気にするだろうし。
私、生意気だし。
ご主人様、いい人なのです。
つい、フツメンとか毒舌出るけど、奴隷商で助けてもらった時、本当は嬉しかったのです。
寂しい時、辛い時の人の優しさは心に染みるのです。
それなのに、私はご主人様の言うことなんて聞かなかったのです。
私は命の恩人にさえ、我が儘な嫌な女の子なのです。
私って最低なのです。そもそも自分があんなに傷ついたのだから相手の気持ちはわかる。
それなのに逆の立場になって、男の子を傷つけて、嘲笑って、悦に浸っていた。
______救いようがないのです、私。
自分のやった事を考えたら、自分がどれだけ最低だったかよくわかる。
……もう、どうでもいいのです。
ここで好きにしてもらえば、少しはこの罪悪感も晴れるかもしれないのです。
「へへっ、じゃあ俺一番な」
男が私のスカートの中に無遠慮に手を入れて来る。
さよなら、身体だけ綺麗だった私。
きっと、ご主人様にも捨てられてしまうのです。
待ってるのは男どものおもちゃになって、容貌が衰えたら、どこかで野垂れ死するんだろう。
「ヤバイ、めちゃめちゃやわらか————————ぐふえぇっ!?」
私の太ももを触っていた男が突然消えて、吹っ飛んで行った。
「な? お前!? 何すんだ?」
いつの間にか涙に濡れていた目に写ったのは、ご主人様だったのです。
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