第25話 アリーの誘惑
「じゃ、今日から私達、同じパーティね」
アリーはそう言うと、ニッコリ微笑んだ。
「ああ、宜しく頼む」
この時、俺はどうかしていた。
女嫌いの俺が、女の子とパーティ組むとか、あり得ないよな。
「アル君は何処に住んでいるの?」
「いや、俺は故郷から出て来たばかりで、家はないんだ」
俺は咄嗟に嘘をついた。
勇者パーティの一員だったことには触れられたくない。
「そっか、ちょうどいい。いい宿、紹介してあげる。私の常宿なの」
「それはありがたい。確かに同じパーティなんだから同じ宿がいいな」
アリーはニッコリ微笑むと俺をメインストリートから少しだけ外れた小綺麗な冒険者用の宿屋へ案内してくれた。
「ここよ、同じ部屋でいいよね?」
「はあ!?」
何言ってるの? この子?
俺らの年齢で同じ部屋泊まるとか、あり得んだろ?
「この宿はそういうのも大丈夫だから。アル君も、少しそういう気持ちあるでしょ?」
「ふざけるなぁ!!」
俺は本気で怒った。
この天使様、絶対、ヤケクソで、行きずりの俺に身体を預けようとしている。
だが、俺はどうかしていた。この話は俺に好都合な話の筈だった。
俺の女の子へのスタンスは絶えず合意あるヤリ逃げなのだ。
この子はまさしくそれでいいと言っていたんだ。
明日の朝、俺がいなくなっていても、何とも思わないだろう。
むしろ、そういう割り切りの関係を望んでいるのだろう。
振られた気分でヤケクソになってる。
だけど、俺は見てしまった。
振られた時のアリーの涙を。
俺、女嫌いなのに、女の子の涙に弱いの。
「いいか、俺はそんなつもりでアリーに近づいたんじゃない! アリーの本性を見てみたかっただけだ。言っただろう、俺はアリーみたいな生き方は嫌いだって!」
「アル君って……良い人過ぎるよ……私の愚痴に付き合ってくれて、助けてくれて」
「俺だって男だ。だけどな、俺は卑怯なのは嫌いなんだ」
この時の俺の本音だった。
でも。
俺は明くる日の朝、目を覚まして思った。
「しまったぁ!」
いや、俺の理想の合意あるヤリ逃げが出来そうだったのに自分から断るとか、俺の阿呆!
どうも、昨日俺は酔っていた様だ。
アリーと食事した時、よくわかんない飲み物を頼んだのだけど、どうもそれがお酒だったらしい。
それで判断がおかしくなってしまった。
ましてや、女の子と冒険者パーティ組むとか、女嫌いの俺が?
俺は馬鹿か?
だが。
そうだ。アリーがまた自暴自棄になった時を狙って、ヤリ逃げしよう。
俺はすぐに考えを改めた。
アリーはすごく可愛い女の子だ。
見逃す手はない。
……俺って、最低のクズだな。
あんな女の子にヤリ逃げしようとか。
以前なら、絶対考えもしなかっただろう。
だが、俺にとって全ての女の子は敵だ。
例外は師匠だけ。
俺がこうなったのは、全て。
俺の脳裏には微笑む幼馴染のクリスの顔が浮かんだ。
「チキショウ……」
俺は涙を流して、憎い筈のクリスへの想いに、涙が出た。
朝、アリーと食事を一緒に取って、冒険者ギルドに向かった。
俺は勇者パーティの一員だったから、冒険者の経験はない。
もちろん、冒険者登録もしていない。
「えっ!? アル君って、冒険者登録してないの? あんなに強いのに?」
「いや、田舎で一人で修行したから、少し自信はあるけど、冒険者の経験ないんだ」
「そんなことあるのね、びっくりした、じゃあ、先ずは冒険者登録ね」
冒険者登録か。
まあ、そういう流れになるか。
勇者パーティを外れた俺が食い扶持稼ぐには冒険者しかない。
普通の職業は誰かの紹介状とかないとまず就業できない。
それに、冒険者の方が俺にとっては実入りはいいだろう。
しかし、あまり目立たないようにしないとな。
師匠からも、覚醒したラプラス変換はある程度強いから注意を集められると不味いと言われている。
まあ、覚醒したラプラス変換って、レベルはべらぼうに高くなるけど、ステータスはそれ程じゃないそうだ。
師匠みたいにレベル2万とか行かんと、ジョブのレベル99は追い越せんそうだ。
俺様、前にクソ勇者エルヴィンを超えたとか思ったから、恥ずかしいでち。
普通のジョブだと、俺のレベルは50位だそうだ。
しかし、初心者の冒険者がレベル50とかありえないから、最初はレベル10と言っとけと師匠から言われた。
「俺、レベル10なんだけど、冒険者登録できるのかな?」
「レベルやジョブは問題ないわよ。冒険者はギルドの入門試験をパスすれば誰でも入れるよ。ただ、試験はただ強ければいいという訳じゃないから気を付けてね」
「そっか、ありがとう。俺、何とか試験をパスするよ」
アリーは既に冒険者登録済だった。
まあ、フィンとエルと三人で組んで冒険者をやっていた訳だから、当然か。
俺はそういう訳で、冒険者入門の試験を受けることになった。
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