第17話 師匠との別れ
俺のレベルが1000になった。
スライム5号から12号も進化して、やっぱり幼女になった。
何故に幼女?
20才位のお姉さんがなんで一人位いないの?
いたら毎日夜が楽しいのに。
女神様の意地悪。
だが、そんな俺に別れの日がやってきた。
「お、お願い!! アル、我を捨てないでぇ!!」
俺と師匠が住む、ダンジョンの最下層から人の住む世界への入り口、ダンジョンへの入り口で、師匠の声がこだましていた。
俺が師匠の弟子となって、既に1ヶ月が過ぎていた。
「人聞きの悪いこと言わないでください、師匠! いくら師匠でも、俺、怒りますよ!!」
俺は恩義を感じつつも、相変わらずの師匠のダメっぷりに呆れていた。
そもそも、人界に行って、修行をしてこいというのは師匠の意見だ。
この1ヶ月、師匠の元、魔法の基本を習い、今では師匠の得意な火の爆裂魔法の他、たくさんの創世級魔法も習得していた。
しかし、これから重要なのは、俺のオリジナルの魔法であるスライム召喚魔法の研鑽だ。それには師匠に教わるのではなく、世に出て、多くのことに関わること。その中で召喚魔法の進化が見つかるだろうと言うのが、師匠の考えだった。
だけど、ダメ人間の師匠は、俺が修行に一人で出ると、自分が俺と一緒に居れないことを失念していたらしい、それに気がついた途端、俺に『行かないでぇ』と言い出し始めたのである。
「だから、ほんの1年位、修行に行ってくるだけだから、それ位待っていてください。それに、師匠と俺はそんな言い方するような関係じゃないでしょ?」
「そ、そんなつれないこと言うな。一緒に1ヶ月も住んでいて、これはもう同棲じゃろう? 男なら、責任取るべきだと思うぞ? それに、我の求婚の返事もまだじゃし……」
忘れていた。そう言えば、初めて会った時、結婚してくれとか言われてたな。
師匠の家で、色々勉強したけど、師匠みたいな女の子を地雷女と言うらしい。
こんなに必死にならなければ、こんなに綺麗なんだから、簡単に結婚位できそうなものだ。
だけど、師匠自身がその可能性をダメにしてしまっていたとしか思えない。
俺はこの1ヶ月で随分と変わっていた。厳しい生活と修行で筋肉もついて、すっかり男らしくなった。
最近、師匠の俺を見る目がちょっと、いやらしい感じもするが、気のせいということにしよう。
「師匠自身が師の元を離れて、一人で行動する必要があるって言ったじゃないですか? 俺の魔法である召喚魔法を進化させるには、自由な発想と新しい出会いが必要だと言っていたじゃないですか?」
「そ、それはアルが一人で出て行ったら、我がアルと一緒にいれんことを失念していたからじゃ! だから、な? 頼むから考え直してくれ!」
師匠は涙目で、目をウルウルさせて俺に抱き着いて来る。
これが魔王で、元歴史上最強の魔法使いだなんて、誰も信じないだろう。
それぐらいみっともない姿だった。
「アル! 頼む!! 考え直してくれ? 我はもうお前無しではダメな身体になってしまったんじゃ!!」
いや、人聞きの悪いこと言わんでくれ。俺は師匠に指一本触れてないぞ。
一度、後腐れなく、結婚なしでヤラせてくれと頼んだら、涙ポロポロ流して泣くんだもんな。いくら女嫌いの俺でも女の子の涙には萎えた。
それで、師匠との合意あるヤリ逃げは諦めた。
いや、師匠、痴女のくせに純情なんだもんな。
いくら俺が女嫌いでも、ちょっとそこまで酷いことできなかったな。
「で? 俺がいないと、なんで駄目な身体になったんですか?」
師匠の訳のわからない主張も、一応聞いておこう。
「アルがいないと美味しい料理が食べれん。それに、身体が火照った時に実物がおらんと、想像しづらいじゃろう?」
「て、師匠、俺で何を想像していたんですか? とんでもないカミングアウトを突然しないでください!! それに、ご飯の作り方教えたでしょう?」
師匠には俺と結婚したければ、簡単なご飯位作れるようになれと言ったら、必死で練習していた。あの時の師匠、めっちゃ可愛いかったでち。
「……はあぁ」
それにしても師匠は見た目だけは最高に綺麗な女の子だけど、魔法と容姿以外の全てがダメなダメ人間だ。
でも、まさか俺で変な妄想してたとか、痴女ぶりが酷い。
その上、この必死ぶりが怖い。さすが彼氏いない歴100年だ。イコール年齢らしい。
師匠のおかしいのは恋愛だけじゃない。
料理できないのを筆頭に洗濯できないし、掃除もできない。
師匠の家は最初ゴミ屋敷だった。
簡単に言うと、師匠は容姿と魔法に極振りの超ダメ人間だったのである。
そんな中、自然に家事は俺の分担になった。師匠の食事を改善して、お酒も控えさせて、家中の掃除も頻繁にして、なんとか普通の生活に戻した。
俺の努力のせいか、師匠の顔色や唇の艶が良くなって、美少女ぶりが更に上がったような気がする。
ホント、見た目はいいのに……残念過ぎる。
「……あの、師匠。本気で俺を止める気ですか? 本気なら、人界への修行を取り止めます。師匠は俺が唯一心を許せる人です。師匠がそこまで引き留めるなら、魔法のことは諦めます」
「ううっ、それではアルの成長が……ズルいぞアル!! 我に決断させるなんて!」
師匠はやっぱり俺のことを考えてくれている。ただ、俺に甘えたいだけなんだろう。
俺の胸に縋り付いていた手をほどいて、俺を下から上目遣いで見る。ズルいなその目。
「1年間、アルと一緒にご飯が食べれないし、一緒にぎゅっと抱き合って寝ることもできないのか……寂しくなるなぁ」
「師匠、一緒に寝ているのは師匠が勝手に俺のベッドに忍び込んで来るからでしょう? ダメでしょう、女の子がそんなことしたら? 俺だって男の子なんですよ!」
何故か顔を真っ赤にする師匠。多分、俺に襲われることを期待して毎日、俺のベッドに忍び込んでいたんだと思うけど、俺が大事な師匠に簡単に手を出すわけがない。
師匠は魔法を教えてくれただけでなく、俺の大切な人になってくれた。
幼馴染のクリスに裏切られて、女性不信、人間不信になっていた俺の心の拠り所になってくれた。
俺にとって、師匠は大切な人なんだ。だから、師匠を大事にしたい。
例え、師匠がいやらしい気持ちだけで俺を抱きしめていたり、時々涎を垂らしたりしていたとしても……
「分かってはいるんだ……。アルは一人で経験を積む必要があるんだ」
師匠は小さな声で呟いたかと思うと、涙がこぼれた顔をあげた。
「アル、行ってこい。お前には経験が必要じゃ。もうお前は一人前の魔法使いだ。だけど、お前はただの魔法使いで満足していいような器じゃない!」
「はい、師匠!」
「人界に行って、魔法の研鑽をしろ。我が教えられることは全て教えた。お前に必要なのは困難だ。その窮地の中から経験を得て、お前の魔法を進化させろ。必要は発明の母だ。困難がお前の魔法の進化を必要とするだろう」
そう言うと、師匠は俺を抱きしめると、無理に笑顔を作って。
「じゃあ、な。名残惜しいけど、人界で頑張ってこい。それと、ついでにお前のことを見限った奴らにお仕置きして来い!」
「は!? はい!!」
師匠がようやく気持ちを整えてくれたようで、心置きなく俺を送り出してくれる。
「元気でな!! アル!! 浮気したら許さんぞ!!」
師匠は無理に大きく声を出して、大きく手を振って見送ってくれた。
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