第16話 スキル『速読10000倍、記憶力10000倍』

放置プレイをする一方で俺は師匠から不知火しらぬい流刀剣術を学んだ。


そして、師匠は実技だけでなく、座学も教えてくれた。


ほとんど自習だったけど、師匠が厳選した剣技や魔法の本を読まされた。


これが。


面白いのである。


特に魔法に関する論文。


それらは多分、かなり高度で、王立図書館所蔵レベルじゃないだろうか?


この中の魔法の複合、応用。


今まで聞いたことにない魔法の知見に、俺の心は踊った。


そして、スライム達が帰って来た。


『経験値が入りました。放置プレイヤーのレベルが1000になりました。速読10000倍、記憶力10000倍のスキルが付与されました』


「速読10000倍、記憶力10000倍?」


『本を読んだりするスピードが10000倍になって、一度読んだら二度と忘れない記憶力ですよ』


なんか、この天の声、最近自分の本分を忘れて、普通に会話するようになったな。


いいのかな? 聞いたことないぞ。女神様に怒られるヤツじゃないか?


まあ、いいか、怒られるの天の声だからな。


俺は次々と師匠が用意してくれた本を読んだ。


そして、俺は謎の本に出会った。


「な、なんだこれ?」


俺は初めて見る文字に驚いた。


『それ、古代文字で書かれた魔法の古文書ですよ』


天の声が教えてくれた。いいのか? そんなことまで教えてくれて?


その本は未知の古代語で書かれていた。


「これを読む方法ないのかな?」


『そうですね。魔王の蔵書の中に子供用の古文書の絵本なんかや幼児用の本もあるから、それらから解読すればいいんじゃないですか?』


「か、解読?」


そうか、俺には速読10000倍と記憶力10000倍がある。それにデュアルオクタコアの頭脳の能力を数百倍に伸ばすスキルもある。


天の声の言う通り、古代語も解読できるかもしれない。


俺は師匠の書庫に行って、古代語で書かれた書物や、古代語に関する書物を漁った。


そして、古代語に関する文献を読み。初歩の知識を手に入れて、子供用の絵本を読んだ。


文法はわかった。今と主語や述語の順番は変わらない。


文字自体が異なるが、どうやら、言語体系自体はほぼ同じようだ。


単語は状況に合わせて変化するようだが、単語の意味さえ判れば読める筈だ。


俺は絵本から、その単語の意味を片っ端から読んで、記憶していった。


そして、夕方頃には例の古文書を読めるようになっていた。


中々興味深いことが書いてあった。


特に魔法の複合に関しては初めて知ることばかりだった。


その古文書によると、魔法は物理学や化学について学ぶといいと書かれていた。


魔法とは、そこに存在しないものを魔素から生み出す技術だ。


何もないところから、炎や氷の塊を現出させる技能。


しかし、これに物理学や化学を応用すると、魔法の威力がさらに上がるとされている。


例えば、水魔法で敵を濡らしておいて雷撃の魔法を使う。


水は電気というものを通しやすく、雷撃の魔法の威力が上がる。


その他にも、火魔法もただ炎の温度を上げるのではなく、土魔法を加味して、化学物質を加えてやると、更に温度が上がるし、爆発させることができる。


「うん? 爆発って、これ、もしかして爆裂魔法のことじゃないか?」


『そうですよ。爆裂魔法のことですよ。皆ジョブで自然にやってますけど、基礎原理はこれですよ。だから、土魔法と火魔法の魔法陣を工夫すると通常より威力上がりますよ』


「ありがとう! 天ちゃん!?」


『て、天ちゃん?』


「そう呼んじゃ駄目?」


『い、いいですよ。アル様と私の間柄なら』


どんな間柄なんだ? というツッコミが頭に浮かんだが、ありがたいことなので、スルー。


こうして、俺は古代の魔法技術までも学んだ。


俺が苦労して古文書を読み終えると、師匠が帰って来た。


師匠は酒を買いに行くために、この深淵のダンジョン最下層から抜けて、街に買い出しに時々行く。いや、普通ダンジョンの攻略は数日がかりだし、パーティー組んで攻略するものだし。


それをソロで気軽にコンビニへの買い物感覚で行くからおかしい。


まあ、レベルが2万超えてるとかだからそんなものかも知れないけど。


いかん、師匠のおかげで俺の価値基準がかなりおかしい。


普通におかしいことだ。普通は信じちゃ駄目だよね。


なんか騙されてるとか思わないといけないよね?


思わないけど。


師匠は帰って来ると、どうも途中で既に飲んでしまったらしく、ほろ酔いだった。


キッチンドランカーとかは聞いたことあるけど、ダンジョンドランカーって何?


普通の冒険者が聞いたら激怒するだろうな。


命懸けの場で酒飲むとか、あり得ないよね。


しかし、師匠はご機嫌だったので、俺に魔法を一つ教えてくれた。


「今日は機嫌が良いから、我のオリジナル魔法を教えてやろう、もっとも発動できるのに1週間はかかるだろうけどな!」


「お、お願いします!」


思ってもない師匠の気まぐれに俺は感謝した。


「魔法陣はこうじゃ、そして、エイっと、パパっとするとだな」


ドーンと師匠の頭上に光球が現れて、空に向かって飛んでいき、大爆発を起こす。


師匠はどうも天才肌らしく、説明は意味不明だったけど、俺は鑑定の魔法で師匠の魔力操作の過程と記憶力10000倍のスキルで魔法陣を細部まで記憶した。


そして。


「俺もやってみます!」


「おお、一発で成功したら、一発ヤラせてやるぞ!」


「師匠、下品過ぎです。だから見た目にそぐわない発言禁止です」


「うっ。そうか、じゃから我はモテんのじゃったな」


いや、それだけじゃないですという突っ込みを入れたかったが、今は魔法に専念。


俺は見様見真似で師匠の魔法を再現した。


今日読んだ魔法の本、特に古文書はとても役に立った。


魔力操作について深い考察があり、鑑定で読み取ったアルゴリズムを正確に再現する。


「エクスプロージョン!」


それは発動した。


「えっ!? 一発で成功しちゃったの? う、嘘でしょ?」


師匠は俺の顔を驚愕の顔で見つめる。


そして。


「わ、わかった。約束したからの、仕方ない、今日の夜! は、恥ずかしい!」


「結構です!」


即答で答えた。


それ、師匠の役得で、絶対無理矢理結婚させられるヤツだ。


全く師匠は油断も隙もない。


「我、なんでこんな扱いなの?」


知るか。心の底から思った。

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