息吹
病室の窓から見える桜の木には、小さなつぼみがついていた。
『桜のつぼみって、冬にふくらんで春に咲くんだよ』
あの日、君は窓から見えた満開の桜を見ながら、笑顔でそう言って笑った。
『私も、桜のつぼみみたいに、寒い冬を越えたいなぁ』
秋になって、君はベッドから起きれなくなった。それでも、君は毎日桜の木の開花を夢見ていた。羨望するような瞳で、枯れていく若葉を見つめていた。
冬になって、君は眠りに就いた。機械的な脈拍音と、繋がれた呼吸機からの息吹で、君が生きていることを実感する。窓の向こうの桜は、ふくらんだつぼみがついていた。
君の言ったことが本当なら、あのつぼみたちは、冬を越すために眠っている。目の前で眠る君も、冬を越すために眠っているんだろうか。
「寒いだろう」
君の、力の入っていない手を握る。氷のように、冷たかった。
「早く、目覚めてよ」
機械音が、僕の声に反応するように、音を立てた。
「そしてまた、満開の桜のような笑顔を咲かせてください」
僕はいつまでも、春の息吹を羨望している。
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