また風に抱きしめられるまで、何時までもここで待っている

泡沫湖月

プロローグ

初風

風が冷たくて、

頬に突き刺さるように痛かった。

君と会う前の自分を、思い出してみる。


自分の周りだけ、空気がなかった。息ができなかった。

重力がこれでもかというほど、全身にのしかかってくる。


どれほど明日が来なければと願っただろう。

どこかに逃げたかった。

こんな世界、諦めてやろうと思った。

たぶん、自分の存在を認めて欲しかったんだと思う。居場所が欲しかったんだ。

世界がモノクロで、濁っているように見えてた。気持ち悪かった。



ある風が強い夜、

街を見渡せるようなビルの屋上で、

君に「一目惚れした」と言われたときから、

君が優しく笑いかけてくれたときから、


世界に、色が落ちたんだ。

モノクロで濁った世界が、虹色でキラキラしたんだ。


ちょっとだけ、ドラマみたいだったかも、なんて。


君といた数日間は、自分の居場所ができた気がしたんだ。諦めずに、生きる意味を探すことができた。



だから、この選択が間違いだと思っていない。後悔がないと言ったら嘘になるけど。


君を好きになり、あこがれ、一緒に過ごした大切な日々。



ほら、明日にはこんなにもたくさんの色が咲いている。

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