第47話
「……ちがう、よ」
ゆっくりと、首を横に振る。
「私がここに残りたいのは、皇子のためだから。皇子以外の人を好きになれるのなら、元の世界へ戻ったって一緒でしょ。……皇子以外の人を好きになりたい。でも、それができそうにないから困ってる」
エヴァンは優しいから、きっと私が迷っていることを分かってる。だからきっと、私がここに残りやすいように、理由をつけてくれている。
「……ちゃんと、答えは出てるじゃないか」
ふっと笑ったエヴァンはもう熱のこもった目はしていない。イタズラに細められた、少しばかり人を馬鹿にしたような、いつもの顔。
彼の指先が伸びてきて、頬を摘まれる。
「そう考えてる時点で、もう手遅れだよ、ばーか」
少年のように笑ったエヴァンを見て、なぜだか無性に泣きたくなった。
「どっちを選んでも、将来後悔するかもしれないなら──“今”後悔しない方を選べば?」
なんて──難しいことを言ってくれる。それが出来るほど、欲望に忠実になれるほど……子どもじゃないっていうのに。
「“普通に考えて”とか、そんなの考える必要はない。ここに来た時点で、“普通”じゃないんだ。誰も咎めないから──サラ様のしたいようにすればいい」
ヴァンパイアの方が、人間よりも欲望に忠実なのだろうか?この人の考え方や、皇子やエリンの無邪気さを思い浮かべて笑ってしまう。冷酷で残虐なイメージのヴァンパイアは、もう私の頭の片隅にもいやしない。
「大丈夫ですよ、あんたは自分の行動にちゃんと責任を持てる人なんだから」
エヴァンの「大丈夫」は、皇子の次に安心できた。
「……ありがとう、エヴァン」
少しの沈黙を過ごし、それだけを告げると私は裏庭を後にした。
私が寝室へと戻った頃。
「……全く、手がかかる人たちだ」
そんなエヴァンのため息も
「……だから放っておけないんだよ」
乱暴に自分の頭を掻きむしる姿も
「──最後になるかもしれないなら……もう少し触れていたかったな」
手のひらを見つめる切ない瞳も──私はこの先一生、知ることはないだろう。
寝室の扉を開ければ、ベッドに腰掛けるノアの姿。
「……遅かったな。そろそろ探しに行こうかと思っていたくらいだよ」
彼の微笑みも、どこかぎこちない気がして。思わず皇子の胸に飛び込んだ。
「──サラ」
優しく頭を撫でて、何度も名前を呼ぶ。
「……今宵は、お前を抱きしめて、片時も離れずに眠りたい」
その言葉に無言で頷くと、私が飛び込んだままの格好でベッドに倒れこむ。
そしてそのまま、本当に一瞬たりとも温もりが離れることはなく──2人で眠った。皇子の胸の中で静かに私は泣いた。確証はないけれど……きっと、ノアも。
──ねえ、ノア。
私の幸せはどこにあるかな?
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