第20話
私をベッドに横たえると、自分もそっと隣に寝転ぶ。二人で同じ布団を体に掛けると温もりが共有できた気がして、ふふっと笑みが零れた。
「おやすみなさい、皇子」
「……おやすみ、サラ」
私の髪を梳き、流れるように額に唇を落とす。その“おやすみの挨拶”にも慣れて自然に受け止めているのだから、人間って変わるものだ。
皇子に抱きしめられているのか、自分から抱きついているのか、それすらも認識できないまま私の意識は夢の中へと誘われていった。
「……ッ」
──苦しそうな、うめき声が聞こえる。
目を開く前にそれだけを感じ取った。うっすらと目を開ければまだ夜中なのだろう、辺りの様子は全くわからない。
眠い目を擦りながら慌てて起き上がる。隣で寝ているはずの皇子から声が漏れているのだ。
「皇子……?大丈夫?」
声をかければ皇子の体がビクッと震えた気がする。
「サラ……、一度部屋から出なさい……っ」
「どうして……?」
「──このままだと、お前を噛んでしまう……っ」
必死に何かを押さえつけるように言った皇子。説明を求めようとするけれど、今はそれどころじゃないだろう。どうしたらいいか分からないまま、彼の肩にそっと触れる。
するとガシッと手首を掴まれた。その力はいつもの皇子じゃないみたいに強い。
「忙しさのあまり、血を飲むのを忘れていた……ッ。禁断症状が出ているんだ……」
暗闇の中、ギラギラと皇子の瞳が光っているのが見えた。こんな目をする皇子は初めてだ。
実際に見たことなんてないけれど、飢えた狼のような目……とはこのことだと思った。
「あの……」
そんな目に見つめられて、心臓が激しく動く。
ゆっくりとこちらに近づいてくる皇子に身動きが取れない。これは恐怖か、緊張か。
頬に手を添えられ、腰を引き寄せられる。間近にある整った顔立ち。少しだけ開いた口からは牙が見え隠れしている。そこでやっと、彼がヴァンパイアだということを実感した。
「──私の血を飲んだら、皇子は楽になる……?」
そんなことを口走った自分は一体なにを考えているのか。
「……っ」
皇子の沈黙は、肯定を表していた。
怖い。血を吸われるのは、想像したくないくらい、怖い。だけど……。
「死ぬわけじゃ、ないんだよね?」
「ああ……」
私を助けてくれた皇子が苦しんでいるのに、それを見放すほど冷徹な人間ではない。
「血を吸われたら、ヴァンパイアになるの……?」
「……いや……」
死ぬわけではない。彼らの仲間になるわけでもない。その事実に安堵した。
「じゃあ、なんの不都合があるの……?」
私が知っているヴァンパイアの伝説なんて、数える程だ。それ以外になにか悪影響でもあるのだろうか。……それを知ったからといって、私はきっと悩むことはなかっただろうけど。
そして皇子が掠れた声で言ったこの言葉で。私は決心したのだ。
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