第18話
「──よくもまあ、あんな嘘が言えたね」
女性が半分ほど洗い終えた衣服やシーツを干しに戻った後、二人きりになりエヴァンに向かって皮肉交じりにそう言う。
「そうしておいた方がいろいろと都合がいい」
「ああ……そうですか」
納得なんて全くしてないけれど相槌を打つ。すると少し考え込んだエヴァンがポツリと零した。
「バレたらノア様に殺されるかもしれんな」
……なんて物騒な。
なぜ私たちが皇子に怒られるのかは分からないけれども。
「……お前は、この国が怖くはないのか」
エヴァンがいつもとは違った声色で告げる。それはどこか戸惑うようなもので。
「……怖くなんて、ないよ」
一瞬、間ができてしまったのは私を気遣うように見るエヴァンの瞳に、胸が詰まってしまったから。
「怖くなんてない。エヴァンも皇子も優しいもの」
もう一度、しっかりと答えを出すとエヴァンは安心したように微笑んだ。
「安心しろ。お前の血は不味そうだからな。俺は飲むつもりはないぞ」
「エヴァンは一言多いよね!」
怒りを込めた拳で隣を歩く彼の肩を叩く。けれどエヴァンは全く痛がることもなく、避けられるはずなのにそれもしない。ただ笑って私を見ていた。
つられて私も、笑った。
その後も掃除や洗濯に勤しんだ。私を引き入れたエヴァンにも当然手伝ってもらったのだけれど、他の人たちにとったらあり得ない光景だったようで。今まで何やってたの、この男。
「手伝うと言ってもここの人たちはさせてくれんかったからな。自分たちがやるから俺はゆっくりしていろ、と」
要するに皇子の側近であるエヴァンに仕事をさせるなんてできなかったのだろう。同情します。
「皆さん、これからこの人こき使ってくれて構いませんからね。力なんて有り余ってるんだから」
そう声をあげれば「は、はいっ」といい返事が返ってきた。さすが婚約者パワー。
エヴァンは私の言葉に不満そうだったけれど、私は間違っていないし本人も手伝う気は満々だから文句は言ってこず。
「なんで俺がお前のいうことを聞かねばならんのだ」
なんて不満を零すから
「婚約者なんでしょ?私」
そう返せば
「本物の嫁はお前とは正反対の娘にする」
とまあ失礼極まりないことをブツブツと呟いていた。
「明日は食材持ってこようね」
「む。何故」
「ご飯食べて栄養つけなきゃダメでしょうが」
「ふむ。そういうものか」
「皇子に頼んでみよう」
「お前の頼みなら、あの方は喜んで聞いてくださるだろうな」
「そういうものですかねえ」
「そういうものだ」
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