第17話
「私、洗濯するよ」
医療知識のない私には治療なんて何もできないけれど。部屋を清潔にすることぐらいはできる。汚れていそうな布という布を引っ張り出して手近なカゴヘ放り込んでいく。
この施設で手伝いをしていたのだろう、健康そうな女性が何名か驚いたように私たちの行動を見ていた。
「あの、私もお手伝いします……!」
そう言ってくれた人はここの患者さんの家族だそうで。その好意を素直に受け入れて、二人で大量の布団やら洋服やらを持って川へと向かった。
二人でぎこちないながらも世間話をしながら作業をする。私、人見知りなんだけど。
洗濯の仕方を丁寧に教えてくれる女性はとても可愛らしくてヴァンパイアには見えない。この帝国に住む人にそんな印象を抱いたのは何度目だろうか。それほどに、人間に近しいものを感じるのだ。
それも、このヴァンパイアたちにしてみれば嬉しいことではないのだろうけど。ヴァンパイアは基本的に人間を敬遠しているらしいから。中には友好的な人もいるそうだけれど。
「──あの、貴方は一体エヴァン様とどのようなご関係でしょうか……?」
川辺でやったこともない手洗いでの洗濯に奮闘していると、隣で手伝いを申し出てくれた女の人がそう尋ねる。
「えーと……」
ここで軽々しく皇子のことを言ってもいいのだろうか。
──否、決して良くはないだろう。
「貴方は人間のようですし……」
少し警戒しているのだろう。それでもエヴァンのことは信じているから、彼が連れてきた私を無下に扱うこともできないのだと思う。
「私は──」
彼女が抱く疑心を晴らさねばならないと思う。だけどそのための言い訳を咄嗟に思いつくはずもなく。彼女の不信感がどんどん膨らんでいくのが見て取れた。
「──この女は俺の婚約者だ」
後ろから私の首元に腕を回して引き寄せたのは
「エヴァン様……」
信じられないような嘘を吐いた、皇子の護衛担当。
この人は人間が嫌いではなかったか?
「……ふふ」
それでも女性はその嘘を信じたらしい。
「エヴァン様が珍しく感情をお顔に出される相手がいらしたものですから。なるほど、婚約者様でしたら納得です」
そんなことを言ったものだから、思わず背後にいたエヴァンを睨みつけた。
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