第4話 心が崩れる音

ここまで話した、たわいない日常生活。

これはうつの薬を飲んで、体調が良くなってからの話し。


うつ病になったのはかれこれ3年前。


3年前の6月

人の声が聞き取れない程の耳鳴り(左側のみ)

耳鼻科へ3か所行くがストレスと診断される。


考えられる原因を上げるとすれば

原因1・当時、印刷会社での事務職だったが、仕事がキャパオーバー。

原因2・職場でのセクハラ・パワハラ・しまいにはストーカーにあう。

原因3・隣人からの監視されてる恐怖。


翌月

精神科へ

1度は良くなるが、1か月後に再発。

さらに3か月後に再発。

そして、昨年12月に4度目の再発。


現在に至る。


内容を話せば、ものすごーく長くなる。

それに思い出したくもない記憶。なので頭の中から消去した。今では詳細にと聞かれても答えられない。なんせ頭の中から消したのだから。


司にはあっけらかんと話したが、本音は心配かけたく無い気持ちが強くて、

辛かった時の話はしなかった。

4度目の再発は夜中に「死にたい死にたい」と旦那に向かって泣きじゃくった日もあった。


見かねた主人が、すぐにでも病院へ行くように私に勧めて来た。

翌日、お世話になっている病院へ行った。足取りは重かった。待合室で待っている間も、なぜか涙が出てくる。こんな事は初めてだった。


「北川さん、どうぞ」


医者に呼ばれる。

そこで私は、今までの事、再就職先で、パワハラにあって3週間で辞めたことを伝えた。

「もう、生きてる意味が分からない。死にたい」と泣きながら言った。

今まで「消えていなくなりたい」とオブラートに包んだ言い方はした事があったが、こんなにもハッキリ「死にたい」と言ったのは初めてだった。でもそれが、素直な私の今の気持ちだった。


医者は、いつにもなく、優しい声で、「しばらく仕事はやめとこうか。」


パッと医者の顔を見た。

「先生、働いていないと私は生きている価値が無いんです。子供の習いごとだって、やりたいことだって我慢させないといけなくなる。家にいると悪い事ばかり考えるから、仕事はしたいんです。それに下の子を児童クラブに入れる事も出来なくなる。。。」

必死だった。仕事をしない。高校をでた後、仕事をずっとし続けてきた私にとっては、考えられなかった。


「北川さん、今のあなたはスタートラインにも立てないぐらい、心が疲れているわ。今、仕事をしたらもっと悪くなる。」


「短時間でも駄目でしょうか。」


「駄目。人と関わり合う以上、多からず少なからずストレスが生まれるのよ。そしてさらに今の症状を悪くさせるわ。ほんとに運よく良い職場に当たらない限りね。」


私は肩を落とした。働けない。私の存在する意味って何?

頭がずきずきしてきた。そして涙もボロボロ出てくる。


「もう年末だし、ゆっくり休んで。仕事しようなんて考えない!求人検索も絶対しないでね。

年が明けて『先生!仕事決まりました』なんて言うもんなら、一生あなたとは口きかないわよ。」笑いながらそう言った。


私を笑顔にさせるために言ってくれた事はすぐ分かった。

私も少しだけ、はにかんだような笑顔が出た。


薬の量が増えた。

その事も落ち込んだ。いつもなら「増やしたくない。」と言うのだが、言う気力すら無かった。


「じゃぁ年明け、必ず、ここに来てね、また顔見せてね?」

いつにもなく優しい声だった。その言葉にまた涙が出た。


「ふぁい・・。」ぐすぐす子供のように泣きながら、病室を出た。涙をぬぐい、待合室へ戻る。医者は児童クラブ用の診断書も書いてくれていた。


おかげで児童クラブへの申し込みは出来る。とりあえず、一つ悩みは無くなった。

目を真っ赤にした私を見て、普段はクールな感じの受付の女性も、「また、来年ですね。良いお年をお迎えください。お身体、お大事に。」と言った。


この人、無駄な事一切しゃべった事無かったのに・・。

私の事心配してくれたのかな。


心が弱っているせいかもしれないが、人の温もりを感じた。


うつ病とはこわ~~~いもので、風邪だと例える人はうつを甘く考えていると思う。

脳が「死ね」というのだから、自殺まで追いやる怖い病気だと私は思う。ひどかったときは、笑顔の作り方さえわからない時もあった。


薬を飲んで気持ちが落ち着いてきた頃に、ふと主人に話したことがあった。

『笑顔って、本当に楽しい、そう思った時に自然と出るもので。うつ病が酷くなると、作り笑いすら、どう作ればいいか分からなくなる。』


すると主人が

「美羽、お前悟り開く事出来るんじゃねぇの」

と笑っていた。

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