私は、わたし。

山城 潤

第1話 友達

私、北川美羽(きたがわ みう)は、先日うつ病と診断された。


「え?あんたが??」


「そう。私が。」


小学校時代からの古い友人、司(つかさ)がキョトンとした表情でこっちをじーっと見つめる。


マックの2階で久々に会った私達。

お互い36歳。私は小さな印刷会社に事務員として勤め、司は雑貨屋の店長を任されている。私は結婚していて子供が2人。司はまだ花の独身だ。

私は家事、育児、仕事で忙しく、彼女もまた、サービス業で土日も仕事の為、なかなか平日に会えなかった。


「時々電話はしてたけど、、ねぇ、何か悩みでもあったの??」

司が身を乗り出して、心配そうに聞いてくる。


心配するのも当然だ。私は昔から、明るくマイペースにわが道を進むタイプで、くよくよ悩む方ではない。うつ病とは縁が無いと思っていた。


ハンバーガーにかぶりつき、もぐもぐしながら、窓の外を眺めた。

「ん~・・、悩みは特にない。なんか耳鳴りがするから耳鼻科に行ったらさ、どこも『ストレスですね』って言うから、勇気出して、精神科行ってみたの。

『とりあえず抗うつ薬出して、様子を見てみようか』って言われて。それを飲んだら酷かった耳鳴りが1週間もしたら治った。それから1か月経って、また耳鳴りがし出して、病院行ったら「うつ病」って言われたわけ。『悩みはありますか?最近変わった事は?』って、何もないっつーの。」


子供を諭すように、司が聞いてきた。

「美羽が感じていないだけで、仕事や家事、育児をストレスに感じてるんじゃないの。」


そうなのかなぁ?


マックのシェイクをズズーっと飲み込み

「ま、そういう事で、私はしばらくのーんびり、気楽に生きてみる。」


すると、司がお腹を抱えてゲラゲラ笑った。

「いや、あんたいつでも気楽に生きてるじゃん。”なんとかなる” が口癖でしょ。それに何度振り回されたことか。小学校の時も、昼休みにかくれんぼで美羽だけが見つからなくて、みんなで必死に探しても見つからなくって。結局いたところは保健室。木から落ちて頭打ったから保健室行ってたって言って、保健室のベッドで爆睡してたでしょ。そこは、『保健室に行きまーす。』

とでも、一言誰かに言うべきじゃなかった?」


「だっけ?都合の悪い事は忘れるんだよね。そういう風に人は作られてるんだよ?だから人って強く逞しく生きていける!」

自信満々に答える私。


「こらこら、責任転嫁じゃないの。てか、うつ病の事、旦那さんには話したの?」


「話した。会社辞めて、しばらく家でゆっくりしろって。」


「え!!仕事命のあんたが!?それ了承したの???」

司がびっくりした目で私の顔を覗き込んできた。


「夢の専業主婦だよ~、しかも私の肩書には「うつ病」がある!って事は、堂々と専業主婦が出来る。今まで家事、育児、仕事の三足の草鞋を履いて、雨の日も風の日も身を粉にして働いて来たわけ。どれぐらい働けないのか分かんないけどさ、少しの休暇ぐらい、許されるよぉ。専業主婦業、思いっきり楽しむぞ~!!」

両手を上にあげ、背伸びをぐぐ~っとした。


呆れた顔で司が

「あんた、、仮面うつ病じゃないの。それ。」


「いやいや、仮面だろうが何だろうが、耳鳴りあったのは事実。そしてうつ病と診断されたのも事実。医者にしばらく仕事をするなと言われたのも事実。旦那に仕事を休めと言われたのも事実。私は言われた通りにしてるだ・け・!」


ニコニコしていう私に、司も呆れ顔をしながらも、ホッとしたのか。


「まぁ、元気そうで何よりだよ。けど、何か悩みがあったら、いつでも相談のるから、いつでも電話してよ。」


優しい司に感謝!やっぱ友達ってサイコー!


話は盛り上がり、気が付けば11時にマック集合だったのが、夕方の16時。


「やっば!子供迎え行かなきゃ!ごめん。また連絡する!」

「オッケー。私もぼちぼち帰るわ。専業主婦楽しんで。くれぐれも、無理しないようにね。」


司に見送られながら

バックとストールを手に取り、急いで保育園へ向かった。

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