私の前後

Mari

9:00

今日の空は快晴だ。

雲一つなく見晴らしが良い。

私は今、田畑に囲まれたアップダウンの無い直線を走っている。

私の前と後ろには似たような色と形をした物が一定の距離を保って、同じくらいのスピードでどこかを目指していた。


9:15

車内ではアップテンポな洋楽が流れており、私を所有する彼女とその横に座る彼氏は流れてくる洋楽を口遊みながら談笑をしていた。


今日の前後は白と黒の軽自動車。


白い軽自動車の後を従順に追うのが私。

私というか、所有者の行き先。


その後ろをぴたりと追従してくるのが黒い軽自動車。

黒い軽自動車を運転するのは見た目20代くらいの金髪の男性だった。


私を運転する彼女は、後ろから迫る黒い軽自動車をバックミラー越しにちらちらと様子を伺いながらアクセルを踏む強さを調節しているのが伝わってきた。


9:22

直線道路に立つ3つ目の信号で後ろの黒い軽自動車はウインカーも出さずに勢いよく右に曲がった。

それに気付いた彼女のアクセルを踏む足から強張りが少し薄まった気がした。


9:34

談笑は続く。

黒い軽自動車の次に私の後ろについたのはベージュの普通車だった。

一定の距離。

彼女はストレスを感じることなく快適に走っているのが分かった。


9:38

前の白い軽自動車はどこまで一緒なのだろう。

君が前に居てくれるお陰で彼女だって無駄に危ないスピードを出すこともなく、ずっと私の前に居てくれることで頼もしさすらもある。


ずっと共に走っていてほしい。

今日の友達は君だ。


後ろのベージュの普通車も威圧感の欠片もない。

貴方も今日の友達。


よろしくね。




10:11

前の白い軽自動車が左にウインカーを出した。

先にはコンビニがあった。


君は私の友達だ。

ずっと一緒がいい。


白い軽自動車はコンビニの駐車場へゆるりと弧を描きながら入っていった。


私は白い軽自動車を追うことなく直線道路を走る。

私の要望など通る訳が無い、だって彼女も隣に座る彼氏もそれを望んでいない、コンビニに立ち寄る用事が無いのだから。


10:12

私の前には誰も居ない。

気が付けば後ろのベージュの普通車も居なくなっていた。


また独りぼっち。

友達になれると思ってたのにな。



10:18

あ、また新しい友達が出来そう。

後ろに白い軽自動車がついた。

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