【 ふたりの距離 】


 それでも、朝方近くに少し眠ってしまったようだ。

 目覚めると、まだ隣にはモエ姉が寝ているよう。


 夜中ずっと体を丸めて緊張していたので、自分の部屋の天井を見ながら小さく伸びをした。

 すると、モエ姉も「ううん……」と色っぽい声を出して、こちらに顔を向ける。


 上を向いている僕の耳元に、彼女の寝息がわずか5cmほどの距離で伝わってくる。


「マモちゃん……」


 寝言なのか、すごく小さな声が聞こえたような気がした。

 温かいホットミルクのような、モエ姉の匂いがする。


 ずっと、憧れていたシチュエーション。

 そんな心地よいベッドの中で、僕はそっと瞳を閉じた。


 するとなぜか、モエ姉がいきなり僕の体を抱きしめる。

 両手と左足を僕の体に巻きつけるように密着してくる。

 これは、緊急事態だ……。僕は、抱き枕ではないぞ……。


 そう思って目を開け、ふとモエ姉の方に顔を向ける。


「……」

「……」


 僕の顔と彼女の顔が向き合って、ふたりの鼻先がチョンと触れた……。


「んっ?」

「んんっ……?」


 距離にして数cm。目を開けたモエ姉の綺麗な瞳に、僕が映っている……。


「んんっ?」

「えへへ……」


 真ん中に寄ったお目々のモエ姉は、とってもかわい……。


「この変態ーーーーっ!!」

「うわわぁ~っ!」


 モエ姉は、いきなり僕をそのかわいいあんよで蹴り飛ばし、勢い良く体がコロコロローラーのように回転しながら、部屋の隅まで……。


(僕が一体、何をしたというのだ……)



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