第2話 許嫁からのご褒美

 なんとか課題のプリントを終わらす事ができてそのまま寝てしまった日の翌日。

 今日は金曜日という事もありみんな気が軽くなって笑顔になっている。

 でも、俺は全然笑えない状況だ。重い足取りで学校へと向かっていると

思わずこの言葉が口から漏れてしまった。

「うう、眠い・・・・・・」

 昨日の寝た時間は夜中の二時、そして起きたのが朝の六時。つまり四時間の睡眠である。まだ眠いとベッドに篭る自分の意志を無理やりひきずり出して体を起こした。

 こうして今に至るのだ。教室に入るや否や自分の席に座りそのまま机に突っ伏して目を閉じた。

 もうこのまま眠りの世界へ行ってしまいたいくらいだった。

ーその時、肩をトントンと叩かれた。机に突っ伏した顔をゆっくりと上げる。

 そこには、少し困り顔をしながらこちらを見つめる海野さんの姿があった。

「珍しいですね。眠そうにしているなんて」

「そ、そうですか。昨日あまり寝れてなかったので・・・・・・」

「夜ふかしはくれぐれも禁物ですよ」

「は、はい」

「それなら」

 何かやり残したような感じの言いぶりだったので少しだけ気にしていると、突然俺の手を握ってきた。

「な!」

「一日頑張れるおまじないです・・・・・・」

 色白でガラス細工のようにきめ細かく、繊細な指が俺の手を刺激してゆく。

 そして海野さんは目を瞑り、

「今日のあなたに良い事がありますように」

 と唱えて手を離した。

 目を瞑って唱えている姿はまるで神に仕えるシスターさんのように、いつもとは違う魅力を感じた。

 さっきまでの眠気はどこに行ったんだと思うくらい今は眠気なんてどっかに消えてしまった。

 冷静を装うことなんてもちろんできるわけなく、みるみる顔が真っ赤に染まっていた。

 男の俺にとってはまさにご褒美のような感覚でこの温かみを感じていた。

「どうですか? 元気出ましたか?」

「は、はひ」

 長い時間握っていたのと緊張が相まって手汗が止まらなかった。冬なら気温も低いため手汗とかはあまり気にならなが今の季節は夏。たとえ実際に手と手が直接触れ合ってなくても手汗は気になってしまうのだ。

「それじゃ、今日も頑張りますよ」

 朝から高刺激な体験をして今日も頑張ろうと思ったのだった。


 放課後になり、俺は保健室に用があるため一階に降り保健室に向かう。

 掃除の時間にぼーっとしてたら椅子を足に落としてしまい、靴下を脱ぐと右足の指が出血していたのだ。

「失礼します〜」

 職員室に入るみたいに扉を開けると保健の先生がいない。すぐに帰ってくる

気配もなく、自分で応急処置をするしかないか。

 メタルラックに置かれている消毒液とガーゼ、絆創膏を取り出し机に置く。

 消毒液を傷口に垂らして、こぼれた箇所をガーゼで拭き取り絆創膏を貼る。

「よし、こんなもんか」

 使った道具を元の位置に戻して俺は保健室を後にした。

 そして、下駄箱前。

 足の指を曲げると少し痛みを感じるが靴に履き替えるにはあまり支障はなかった。

 帰り道。歩くスピードが少し遅く、思うように歩けない。今日は少し不幸が迫ったがその分ちょっとした幸運も訪れた。

 海野さんが握った俺の右手を思わず、ぎゅっと力を込めて握った。もう数時間も前の事なので体温や温かみは感じれなかったが確かに海野さんはこの右手を握ったのだ。

 それしてもまだ足が痛む。今日は帰って早く寝よう。

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