新たな体験そして葛藤
第1話 再会と葛藤
長い夏休みも終わり今日から学校が始まる。久しぶりの早起きは少しきつかったが久しぶりの学校という事もあり少しワクワクしている自分がいた。
「はあ~」
大きなあくびをしながら通学路を歩き始めているとクラスメイトに手を振られたり、すれ違うとおはようと言われたりいつもと変わらなかった。
「おはようございます。城道君」
背後から名前を呼ばれて反射的に後ろを振り向く。そこには、うちの学校の制服に身を包み謙虚そうな顔をしながらこちらを見つめる海野さんの姿が目に入る。
「お、おはようございます」
余裕のなさそうなおどおどとした態度を見られつつも何とか挨拶を交わす事が出来た。
制服に身を包んだ彼女の姿はまさに至高だった。
初めて出会った時はワンピースを着ていて華やかさがあってそれも良かったが、今回は制服だ。
うちの高校はブレザーが可愛い事で一部の女子に人気がある。とは言っても今は夏服なので、厚着なんてする事もなくみんなシャツ一枚だ。
もちろん、海野さんも。
「それにしても今日は暑いですね」
「そ、そうですね」
言われて気がついたが今日はやけに暑い。家から学校に来るまで汗がダラダラ垂れて制服のシャツは少し濡れている。
教室行ったらとりあえず予備のシャツと着替えるか。そんな事を思っていると
「私今日からこの学校に転校する事になったので、改めてよろしくお願いしますね」
「そ、そうだったんですね。同じクラスメイトとしてよろしくお願いします」
「はい。こちらこそよろしくお願いします」
ホームルーム中で海野さんの自己紹介が行われてクラスの男子は叫んでいる奴や嬉しさのあまり泣いている奴までいた。
そして、席は、
「隣ですね」
「そ、そうですね」
まさかの隣だった。
思わぬ偶然に俺は少し驚きを見せて、すぐに冷静を装った。
授業や終わるないなや、俺は弁当を片手に持ち教室を出た。別に友達がいないからって便所飯ではない。断じて違う。
俺の向かったのは、
「う〜ん! やっぱりここが一番だな」
屋上だ。朝はかなり暑かったが今は外で食べるのにちょうど良い気温になっている。ここなら寂しいぼっち飯も少しは気を紛らわすことができるし、授業の始まるギリギリまで昼寝ができる。
まさに一石二鳥。
教室で一人寂しく食べているよりもよっぽど有意義だ。
壁にもたれて弁当箱の蓋を開ける。手を合わせていただきますと唱えて弁当を食べ始める。
数分も経てば、弁当箱の中は空になっていた。昔祖母にゆっくりと食べろとよく言われていたっけ。
弁当を風呂敷に包みかばんの中に入れる。特にやる事もなく、今は日陰になっている場所に座りぼーっとしている。
このまま寝落ちしてで授業に滑り込みセーフなんて事は前にもあったがその時は先生に注意されたので今日は余裕を持って行動はしたいと思う。
よく人間とは口だけの生き物ってよく聞くけど、俺は今それを痛感している。
さっきまでの決心はどこに行ったんだと思ってしまうほど今は横になって目を瞑っている。このちょうどいい風の吹き、日陰が当たらないので太陽の心配をする必要も事も無い。まさに好条件。
そして誘惑に負けてしまい、そのまま眠ってしまった。
目が覚めた時にはもう時すでに遅しだった。もう授業の始まっている時間になっているのだ。
急いで教室に向かい、先生に謝罪をした。今回は俺の過失だった。誘惑に負けて寝てしまいそのまま授業をほっぽり出すのはまさに学生としてタブーだ。
この学校では授業の無断欠席は意欲が無いと見なされたとて定期考査で良い点数を取ろうが成績が落ちてしまうのだ。
それだと今後の進路にかなり響いてしまうのでそれだけはなんとしても避けたのだ。
俺が反省している事に信頼を賭けてくれたのか、今回は特別に、課題として手渡されたプリントを提出すれば今回の無断欠席を援助してもらえるらしい。
それはそれで本当に助かった。ナイス先生。
プリントを受け取り自分の席に座ると小声で、
「何かあったのですか?」
「あ、いや、昼寝してたら遅れちゃって」
「そうですか・・・・・・今度から気をつけてくださいね」
「あ、はい」
全ての授業が終わりここらは放課後になる。部活をやったり友達とどこかに遊びに行ったりとやる事は人それぞれだ。
でも今の俺にはそんな事もする暇はない。早く家に帰って課題のプリントをやらないといけないのだ。
そんなもんすぐ終わると正直俺もなめていたが、そんな考えはすぐに覆された。
「この量は流石に・・・・・・」
そう、量がかなり多いのだ。予想としては両面印刷の一枚だと思ったが、両面印刷の五枚なのだ。
カバンから取り出して、再びプリントを確認するがしっかりと両面印刷の五枚だった。
休んだ授業が数学という事もこの課題の量に影響しているのかもしれない。
国語や英語は問題を無限に作れるわけじゃなく、多少なりともの限界がある。
この場合数学は別だ。数字さえ変えてしまえばいくらでも問題を量産ができてしまうのだ。
まあ、今回は俺が悪いのだからやるしかないか。
そんな事を思いながら玄関に向かっていると、空き部屋の教室から何やら話し声が聞こえるのだ。
今は使われていない空き教室なので秘密を共有し合うのにはうってつけだ。
少し興味が湧いてしまい、盗み聞きが悪い事だとわかっていても欲に負けて盗み聞きをしてみる事にした。
「ねえねえ知ってる〜? あいつがこの学校に転校してきたって」
「知ってる知ってる。昔いじめられてたやつでしょ〜」
「そうそう。確か変なあだ名あったよね。確か〜」
「心の無い鈴だった。そんな感じのあだ名だったよね〜」
「そうそう! そんな感じのだった!」
心の無い鈴?いじめられてた?一体なんの話をしているんだ?
全く話の内容が分からなかった俺はその場を離れてそのまま帰路に着いた。
ちなみに課題のプリントは徹夜して終わらせた。
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