第7話 許嫁のお裾分け
ひとまず俺は荷物を片付けて帰宅した。帰る際、海野さんが手を振って見送ってくれたのは嬉しかった。
だが、俺にはまだやり残した事があるのだ。そう、なんでこんな事になったのか母親に問いただしていないのだ。
母親なら何か知っているに違いない。そう思ったのだ。
「ただいま〜」
ガラガラと玄関が開く音を立てるとリビングから母親が出てきた。
「おかえり〜どうだったお見合いの相手は?」
「まあ、良かったけど」
「それならお母さん嬉しいわ〜」
「っっっっって違う! それよりなんであの子が俺の許嫁になったのさ!」
「それはね・・・・・・」
「うん・・・・・・」
突然のひっ迫した雰囲気に俺は思わずつばを飲み込む。
「まだ教える事は出来ないわ」
がく! それはないしでしょ! だってあんなに何か言いますよ感の雰囲気醸し出しといてそれはずるい。
「なんでさ!」
「まずは、目の前の人を幸せにする事からだよ。それがちゃんと出来たら教えてあげる」
「本当に?」
「本当本当。まずは上がって荷物置いてきたら」
「うん」
とりあえず言われた通り二階に上がり自分の部屋に荷物を置く。一日だけ置いた部屋は少し新鮮味があったがやっぱり自分の部屋が一番落ち着く。この部屋の丁度いい広さ、この間取り。自分の部屋が一番だな。
「さて、何しますか」
とは言っても今日は何もする事が無いのでただ床に寝っ転がってぼーっとする何の生産性の無い事をしている。今日はいつもと違って少し気温が落ち着いているので昼寝にはかなり最適だ。
もうこのまま寝てしまいたいくらいだ。そんな事を考えていたら眠くなってきた・・・・・・
「ん・・・・・・」
目を開けたら辺りはすっかり暁の時間になっていた。
「口が乾いてる・・・・・・」
口を開けっぱなしして寝る事が多いので毎度口が乾いて目覚めると水分を求めリビングに向かうのがお決まりの流れだ。
「はあ〜」
大きなあくびをしていると、玄関のチャイムが鳴った。確か母さんは午後からいないって言ってたっけ。それなら俺が出るしかないか。
一階に降りて玄関のドアを開けると、
「ど、どうも。夜分遅くにすいません」
海野さんだった。海野さんの家から俺の家までは徒歩で約十分。ここに海野さんが来るのは別におかしくない。
「どうしました?」
「良かったらこれどうぞ」
そう言って手渡してきたのは両手で持っているタッパーだった。蓋は色が付いているので何も見えないが側面から少しだけ見えた。
「これは?」
「夕飯のお裾分けです。今日城道君のお母さんいないと聞いたので」
「ああ、これはご親切にどうも」
何で母親が今日いない事知っているんだと思いながらタッパーの蓋を開ける。
中に入っていたのはハンバーグだった。型も崩れてなくてちゃんとソースもかかっている。
「味の保証はできませんが、食べてくれると嬉しいです」
「もちろん食べますよ。ちゃんとタッパーは洗って返しますし」
「それは嬉しいです」
にっこりと微笑む海野さんの表情に俺はしっかりと釘付けになり頭から湯気が出てしまいそうなくらい顔を赤らめてしまった。やっぱりこの人の笑顔は最強だな。
「じゃあ、おやすみなさい」
「あ、はい。おやすみなさい」
お裾分けでもらったハンバーグ。海野さんは味の保証はしないと言ったがかなり美味しかった。
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