第6話 無邪気な許嫁

 朝、おかしな夢を見る事もなければいつもみたいに寝苦しくて夜中起きるなんて事もなくぐっすり眠れた。こんなにぐっすり眠れたのは久しぶりだな。

「んん〜」

 太陽の光が差す場所で俺は体を伸ばす。

「う〜ん、良い朝だ」

 さっきまで眠気が嘘のように今は目が覚めた。体を伸ばし終わって、布団を片付けようとするとすぐに違和感を覚えたのだ。

「なんだ、これ?」

 妙に布団がモゾモゾと動いて盛り上がっているのだ。なんだと思い布団をめくったらそこには、

「くう〜くう〜」

 間違いない。海野さんがいるのだ。あ、そうだった。昨日急に添い寝に来てそのまま寝ちゃったのか、ああ〜なるほどなるほど、やっと全部思い出したわ。

 っっっっって違う! そうじゃないのだ!

 このままだと布団を片付けられないじゃないか! それに同じ布団で今まで寝てたなんて思うと男の俺から見ると様々な欲求を掻き立ててくるがなんとかグッと押さえる。

 くう〜くう〜と規則的な寝息を立てて海野さんは熟睡している。着用している着物も今となっては帯の結びが解けかけており完全に無防備状態なのである。

 普段身につけている仮面が剥がれたと言ってもいいくらい今は何してもバレないのだ。それなら、あ〜んな事やこ〜んな事をやってみたいと男なら思ってしまうが、もちろん俺にそんな事をする度胸は無い!

 ひとまず起きてもらうため、俺は海野さんの肩をトントンと叩く。

「起きてください〜もう朝ですよ」

「う〜ん。もうちょい寝かせてください〜」

「起きてください。布団片付けますから」

「それなら私の眠気も片付けてくれたら嬉しい、か・な」

 誰がうまい事を言えと思ったがその瞬間、海野さんの口元の口角が上がった。

 初めて見る海野さんの笑顔。この笑顔を俺だけが独り占めができるなんてなんて贅沢なんだ。少しあどけなさが残るこの笑顔を見た瞬間思わず頭の中のフィルムに現像をしたかのようにこの瞬間、この笑顔を目に焼き付けてしまった。やべ、めっちゃ可愛い。

「はいはい。とりあえずどいてください」

「いやなのです〜まだ寝てたいです〜」

「わがまま言ってないで起きてください」

 もうこれ以上何を言っても聞いてくれない気がするので俺は最終手段を取る事にした。最終手段と言っても何か特別な事をするわけではない。

 ただ単純に、布団をひっぺ剥がすだけだ。

「それ!」

「ひゃあ!」

 無理やり布団をひっぺ剥がすと、数秒だけ重力に逆らい宙に浮き、そして別の場所に布団を移す。

 今は夏なので、かけ布団はタオルケットとかなのでそこまで苦戦はしなかった。これが冬とかになるともっと苦戦しそう・・・・・・

「もう起きてください」

「は、はい。そ、その・・・・・・」

「は、はい?」

 何かあったのかと思い、海野さんの方に体を向けると、そこには着物の帯が解けかけて顔を赤らめる海野さんの姿があった。

「な!」

 いつもならちゃんと縛って下着などが見えないようにしているのが普通だが、今は違うのだ。帯が解けかけている事で下着がもろに見えているのだ。主に上が。色も分かってしまうくらいもろに見えている。

「す、すみません!」

 あんな姿を見て直視し続ける事なんてできるわけもなく、俺はすぐに後ろを向く。直視していないとはいえ体全体は俺の目に映ったのだ。

 当然胸も見えてしまったのだ。他の人よりも一回り大きい胸って事しか覚えていない。今の俺はただ顔を赤らめて後ろを向く事しかできなかった。

「い、いえ・・・・・・その城道さんって積極的なんですね・・・・・・」

「ん!」

 俺はこの言葉をすぐに理解した。完全にそっち系に意味じゃないか!

 違う、俺は何もやっていないし無実だ。

「そ、そのこういう事は・・・・・・ちゃんと順序を踏んでから・・・・・・」

「ち、違うますー!」

 そこから必死に弁解をしてなんとか誤解を解く事ができた。はあ、良かった。

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