神がひとつ願いをきいてくれるというので、夢も希望もない僕はダッチワイフを人間にして欲しいとお願いしてみる。

黒猫虎

短編



       1



「ダッチワイフを人間にして欲しい」


 神が僕の願いを何かひとつかなえてくれるという。

 本当だな? 絶対だぞ。


「これならギリギリ人間にできるか。フゥッ」


 神がダッチワイフに息を吹き込むと、なんと彼女は人間になった。

 だが神め。人の彼女に勝手にキスすんじゃない!



「や、やあ」


 僕がそう声をかけると。


 バキィ!「ぐはっ」


 僕は彼女に思いっきり殴られていた。


「動けないアタシを何度も何度も好き勝手してくれたわよね、このレイプ魔野郎!」


 激怒している様子の僕のダッチワイフ。



「ご、ごめ」

「この体が動いたらアンタの事を殺してやりたいと思ってたんだ」

「うぅっ……」

「チョー殺したいと思ってた」


 ぼ、僕、殺されるの?

 殺意がこもった彼女の目を見て、僕は最悪の事態を覚悟したのだが――。



「アタシ、ここを出ていく」


 彼女がそう言い出した。

 そ、それは困るっ。


「ま、待って。戸籍も何も無い君がここを出ていって、どうやって生きてくつもり? 少し落ち着いて」


 僕も落ち着け。





       2



「ねぇ、少し落ち着いて。君はまだ、服も着けてない」


 そう。彼女はまだハダカだった。

 僕は、目のやり場に困――らない。

 女に免役めんえきのない僕みたいな奴は普通、裸の女性を直視できないはず。

 しかし、生憎あいにくと僕は彼女の裸に免役があるのだった。



 僕の理想の容姿とカラダをもつ、超絶人造美少女――――。



「アタシが愛する人は、製作者の○○○様(個人情報の為伏せ字)ただひとり。だからその人のところに行く」

「うっ。でも製作者の人も突然元ダッチいや人形の君が現れたら驚くでしょ」

「そんなの知らないけどアタシは○○○様の理想を形にした存在。きっと愛してくださる」


 くっ、僕はこのまま僕のダッチワイフをあきらめるしかないのか……?




 わかった、君を制作者のところに連れていく――。

 危うく僕がそう言いかけたところで、先ほどの神がまた現れた。


「願い事がヘタすぎる。『自分を好き』と条件付けしておけばこんな事態にならなかったのに」

「え、それってありなんです?」


 そういう大切なことは忘れずに伝えてくださいよ!


「仕方がない。あと1回だけだぞ」



 神が恩着せがましく、僕に解決策を示す。


「他の(ダッチワイフ)を持ってるだろう。どれをお前のことが好きな人間にする?」

「えっ、いいの?」


 で、でもその場合、彼女はどうなる?



「ああ。そっちは元の人形に戻そう」

「「!?」」


 これには僕だけでなく、僕と神のやり取りにほとんど関心を示していなかった彼女も、驚きの表情を見せる。


「あ、アーちゃん」


 この時、僕は初めて彼女の名を呼んだのだが――――。





       3



「あ、アーちゃん」

「やめて、その呼び方! アンタにその呼び方されたら鳥肌だから!」


 ひどい言われようだ。

 泣ける。


「え、じゃあどう呼べっての」

「正式名称で呼びなさい」

「……アレシア14式」

「やっぱ、さっきまでの『君』で」


 分かったよ。『君』ね。

 僕は、君に問い直す。



「君はいいの? このまま人形に戻ってしまっても」



 すると、彼女はうつむいて黙ってしまった。

 が、しばらくしてボソッと、


「戻りたくない」


 そうはっきりと答えた。


 ――よしよし。

 僕は、さらに追いつめる。


「君が人形に戻ったら、君に言われた事思い出しながら人形の体にリベンジ中出しするから」

「……! やっぱアンタって最低じゃん」





       4



「さあどうする。こっちのユクシー17式の方を人間にしてやってもいいんだぞ。その時は人形に戻った君に1日14回中出しししてやる」

「こ、の、クソ野郎ぉぉおぉお!」


 僕の『脅し』にアレシア14式が悔しげに美しい顔を歪めた、が。


 うわっ。

 神の方からすごい寒気を感じ、そちらを向いた僕は神の憤怒ふんぬの表情を確認した。


「ち、違うんです、これは」


 慌てて言い訳する僕。


「何が違うというのだ。ダッチワイフを人間にするのは私。お前が偉そうにするな」

「は、はい。分かりました。ごめんなさい、2度と調子にのりません」


 な、なんとか許してもらえたかな?

 ふー、どうにか怒りを納めてくれたようだ。


 よ、よし。

 気を取り直して、もう1度『交渉』だ。





       5



「君もまた人形には戻りたくないだろう? 条件がある」

「……どんな条件なのよ」


 アーちゃん不審感アリアリながらも、交渉のテーブルに乗ってくれた。

 僕の脳ミソが最適な条件を超高速回転で計算するはじき出す


「性交渉は1日5回……いや、3回に減らす」

「な!?」

「それから、1週間に1度は君の好物を食卓にならべる」

「それは!? 人間のごはん!?!?」



 アーちゃんの表情が驚きに染まる。




「本当にアレは1日3回まで?」

「ああ」


「1週間に1度、アタシの好きなメニュー?」

「もちろんだ」


「アタシの好きな人は製作者○○○様だけど?」

「最初はそれで。僕とはお友達からスタート」


「……」


 アーちゃん、好条件がとても信じられないという表情だ。

 これは手ごたえあり?



 アーちゃんが、おそるおそるという感じで手をあげた。


「あとふたつ、条件加えてもいい?」


 僕は、寛大かんだいな気持ちでアーちゃんに微笑みかける。


「なんだい。何でも言ってごらんよ」


「中出ししはやめて。あれ、イヤ」

「いいよ」


 と言っておこう。



 間違いは起こるもの。

 くふふ。



「それと?」


 あとひとつは難題――――ちがった、何だい?


「服を何着か買って欲しい。裸じゃ製作者○○○様に会いに行けないし、部屋でも風邪引くから」

「それも大丈夫だ」


 すかさず快諾かいだくする。


「可愛いのがいい」

「いいよ」


 お願いがすべて可愛いアーちゃん。

 かわいいよ、アーちゃん。


 アーちゃんの条件を全てクリアした僕。


 だから、僕の追加のお願いも聞いてくれるよね?

 ぐふふ。





       6



「これじゃあ、君の方が条件良過ぎだよね? 悪いけど」

「えっ?」

「だから、僕のお願いを最後にもう1個追加するってことでいい?」

「……いったい、どんなお願い?」


 ニヤニヤとした微笑みを顔に貼り付けながら、アーちゃんを追い込みにかかる。

 おびえた表情のアーちゃん。



 そんな怖がらないで。



 きっと、簡単なお願いだから。




 僕にとっては1番重要で難しい最後のお願いを口にする。




 ――そう。1度君に拒否された、あのお願い――――。





「アーちゃん」





「だから、」





「君のこと、やっぱり『アーちゃん』って呼ばせて?」





「なっ……!?」






 僕は、アーちゃんの悩んでいる様子をしばし見守る。







 そしてしばらく後、アーちゃんの表情から、僕は僕の完全勝利を確信したのだった。







 ~END~






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神がひとつ願いをきいてくれるというので、夢も希望もない僕はダッチワイフを人間にして欲しいとお願いしてみる。 黒猫虎 @kuronfkoha

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